次の日、昨日の稽古の興奮が冷めやらないまま知念の下を訪れていた。2人とも今日はどんな技を教えてもらうかを楽しみにしていたが、到着した時にはまだ知念の姿は無かった。それで前日に教わった技を稽古していた。しばらくする知念がやってきた。
「頑張っているね。ちょっと見せてもらおうか」
知念はそう言うと、2人の稽古の様子を見学していた。その中で2つ3つ注意されたが、その後、小さく頷き、言った。
「昨日、蹴りに対する技を教えたので、今日は突きに対する技を教えよう。今度は颯玄君が仕掛けてきて、サキさんはその様子を見ていなさい。中段突きで仕掛ける、というのは基本でよくやるが、今日は上段突きで来なさい」
昨日同様、互いに組手の構えで行なうことになったが、相変わらず知念の構えには力みを感じない。それが余計に不気味な感じであるが、颯玄は言われた通り、右上段追い突きで仕掛けた。
知念はその攻撃に対し前足を少しだけ横方向に動かした。同時に奥手で上段揚げ受けのような感じで対応したが、その時は手刀だった。そして、2人の上肢が触れたと思った瞬間、そこで動きが止まることなく知念の手がくるりと回旋し、颯玄の手首を捕った。
次の瞬間、知念は自身の側方に捕った颯玄の上肢を大きく回した。その時、颯玄の姿勢にわずかな乱れが生じた。知念はそのまま動作を止めず、颯玄の背中方向に動かした。今度は手首を上方に持ち上げるような感じになっている。そしてそういう上肢の動きに連動し、知念の奥足が颯玄の前足の外側に移動していた。上肢の動きと連動しているため、ここまで流れは途切れずに一瞬で行なわれているような感じだ。
ただ、颯玄の上肢が背中のほうで上に持ち上げられていると言っても、肘関節のほうが手首よりも上になっている。
実は回旋の最中、知念は颯玄の手の甲に自身の掌を当て、前腕を捻っていたのだ。そのことによって途中で手首と肘関節の位置が変化しており、知念が歩を進めた時点では手首は肘関節の下になっていた。颯玄の前腕は地面に対してほぼ垂直になっており、その下方では手首が曲げられた状態になっている。
知念はその状態で自身の掌を少し上に挙げようとしたが、颯玄の手首の可動域には限界がある。それ以上挙げられたら手首が折れてしまう、といった感じになっていた。そのため、足が浮き上がるような感じになっており、身体も伸ばされている。
颯玄はその状態が限界になった時点で反対の手で自分の身体を叩き、その様子を知念に知らせたが、そこから今度は一気に掴まれていた上肢を真下に下げられた。
その前の状態のところでは丹田が落ち着いていないので、颯玄はその動きに贖えず、そのまま地面に倒された。