初日に教わった技はその後も継続しつつ、類似の系統の技をいろいろな設定で教わった。2人で習う分、確認し合いながら帰り道を歩くため、効率よく吸収できた。祖父の狙いの一つにこういうことがあったのかもと思いつつ、その時間を楽しく感じていた。
稽古の内容は掴まれた場合の対処法ということから、相手が突いたり蹴ったりしてきた場合の技へと変わっていった。
颯玄とサキは何時も2人で稽古しているし、知念も他の門下生の指導があるので初日のように掛かりっきりというわけにはいかない。最初に技を見せた上で大切なことを説明し、それに従って2人で研究しつつ習得するように指導した。
もちろん、時々様子を見ることになるが、知念がそうするのは2人の武術家としての資質を考えた上でのことだ。それは久米も同様だが、武術は教わるだけでは上達しない。自らの気付きが大切で、工夫する意識を持ち合わせていなければ同じところをぐるぐる回っているだけだ。
だから新しい課程に入った時は、これまで学んだことがどれだけ応用できるか、という確認から始まった。
知念は颯玄に言った。
「これまで稽古してきた技は上肢を念頭にしたものが多かった。しかし、打突系の技の場合、突きや打ちばかりではない。そのことは2人もよく理解しているはずだ。ということで、今日は相手が蹴ってきた場合、という設定で行なう」
その言葉に颯玄は掛け試しでの経験を思い出した。蹴り足を捕り、崩そうとしたことがあったことを思い出した。それらの技は祖父からも教わっており、最初に知念の下を訪れた時から学んでいた技に比べればまだ馴染みがあるように感じた。
だが、知念は投げや関節技を得意とする達人だ。自分が理解している範囲以外の技や考え方について教えてもらえることを期待した。
「では、サキさん。颯玄君に前蹴りで仕掛けてみなさい」
2人は組手の時の構えを取り、サキはそこから奥足で蹴ってきた。右前蹴りだ。
この時はどう対応するかということを予め含んでいるわけではない。だから何の反撃もない。だが、サキはこれまでの稽古から中途半端な攻撃はしてこない。颯玄が何かしなければ確実に当たるという状態だ。だから颯玄はここでは後方に下がり、その蹴りを躱した。
「わしが何も言わなかったからか颯玄君はよくある動きでサキさんの攻撃を躱した。だが、それは単に蹴りが当たらなかっただけで、そこに投げや関節技につながる動きはない。その意識ではここで稽古している意味がない。相手の攻撃は当たらないけれど、自分の攻撃は届く間合いを取る、それは打突系の技法体系でも意識するのではないか? そういうことがまだ心の底まで沁みついていないからこそ本能的な行動を取ったのだろうが、武術では習得した内容を応用することで自分が有利な状態を作り上げていく。そこでサキさん、わしに対して蹴ってきなさい」