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出稽古 20

 2人の答えから知念は感心していた。

「さすがは久米先生がわしのところに預かってほしいと言ってきた2人だ」

 颯玄たちの答えに知念はその場に居合わせた他の道場生に向かって言った。

「ここに訪れた時の条件が違うと言っても、きちんと基礎を磨き、目を養っていれば初めて見た技でもその内容が分かることがある。2人の話はそれを実証したようなものだが、今一度初心に戻り、自分の感性を磨いて稽古しなさい」

 知念は2人の意識を自分の弟子にも学ばせようとして言ったが、颯玄たちがこの技ができるようになったわけではない。そこで再び知念は先ほどの状況を作って細かく指導した。

 サキの場合、どうしても力んでしまう癖がある。男に負けたくない、という気持ちが根底にあるのかもしれないし、力を抜くことでそこからさらに攻め込まれるのではという思いがあるのかもしれない。

 知念はそういうサキの気持ちを察していたので、技を掛ける前の一瞬の脱力について時間をかけた。それにより相手の掴みの意識が一瞬抜けることになるが、そこからの展開については身体の使い方で何とかなる。これは知念が複数の設定をし、その上でサキ自身が感じる颯玄の体重や抵抗が変わることを実感させつつ、もっとも効率的な場合を身体に覚えさせていった。

 そういった段階的に教わることは、やられ役になっている颯玄にも勉強になり、自分が技を掛ける立場になった時の想像しながら受け止めている。

 その繰り返しで何とかコツらしきものを掴んだ時、サキが技を掛ける稽古は一旦終わった。次は颯玄が技を掛ける立場で稽古するわけだが、その全容を客観的に見ているわけではない。掛けられる立場としてはしっかり経験させてもらったが、立場を変えるとなるとまだ耳学問の段階なのでよく分からないところがある。

 そこでまた知念が見本を示し、それを颯玄も見せ、技の全貌を理解させようとした。ただ、その時の相手はサキではなかった。自分の門下生の中で一番大きい前里を選び、同じように手首を掴むように指示した。

 知念よりも大きな体格で、力も強そうだ。見た目だけで言えば、とても動きそうにないといった雰囲気だ。そして、前里は今いる中では一番の古参という。つまり知念の技もしっかり知っている相手だ。技を掛ける前、知念は前里に本気で掴むように言った。ここで慣れ合いのようになれば意味がないということと、体力差を跳ね返すことが武術、ということを暗に伝えたかったのだ。

 設定通りの状況になったところで知念が動いたが、結果は一瞬だった。颯玄が簡単に崩された時と同じ結果になった。

「これが知念先生の技だよ。何年経っても先生の技を防げない。分かっていても無理なんだ。でも、さっきサキさんの様子を見ていると、俺なんかよりも呑み込みが良さそうだし、強くなるよ」

 前里が2人に言った。颯玄たちはその様子を見て、ここに来て良かったと改めて感じていた。

 その上で颯玄はその前里を相手役として稽古を始めた。前里は颯玄よりも大きかったので、サキと同様、どうしても力んでしまう。初めて学ぶ技で、しかも相手の身体を浮かすことも含めて行なうとなると、無意識に力が入ってしまうのだ。おそらくサキの場合も同じように気持ちだったに違いないと思っていた。

 だが、そういう思いとは別にきちんと指示に従って技として使えるようになりたい、という思いはしっかり持っていた。だからといってすぐにできるようになるほど武術は甘くないが、知念から細かな注意を受けることで少しずつ改善していったのは颯玄だけでなく前里も感じていた。近くで見ているサキにも何となくそういう変化が見えていたが、もちろん、知念のように鮮やかに極めることはできない。

 気が付けばこの技の稽古だけで結構時間を費やしており、辺りは薄暗くなっていた。ここが青空道場の問題点で、ここでこの日の稽古は終了した。

 他の人の稽古もあったわけだが、知念が自分たちを中心に教えてくれたことに感謝し、またみんな歓迎してくれたことに深々と頭を下げ、お礼を言った。


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