知念がそう言うと、サキは口をつぐんだ。そして、颯玄が言った。
「今、知念先生から技を掛けられて、何が起こったのか分からず、全く反応できなかった。少なくとも突いたり蹴ったりして来られたら、何らかの反応はできた。でも、掴むことで自分が有利と思った中で突然身体が浮き上がり、次の瞬間、地面に膝を着いた。これも事実だ。その結果だけを考えると、これが実際の戦いで起こったらサキが言ったように次の瞬間は負けることになっているだろう。俺は今の設定が実戦であり得るかどうかだけでなく、現実にこういう技があるならそれを学び、使い方を身体が覚えたら、その応用ということで使えるかもしれないというほうに賭ける。だからしっかり学びたいと思う」
サキにとって颯玄の言葉は重い。
「分かった。・・・知念先生、さっきは生意気なことを言ってごめんなさい」
「サキさん、本当に正直だな。久米先生があえて2人をわしのところに行くようにといった意味が分かるような気持ちだよ。では、せっかくだからさっきの技をきちんと教えるから、2人でやってみなさい」
知念はそう言って颯玄にサキの手首を掴むように言った。サキは客観的に見ていた立場として、颯玄は技を掛けられた立場として、先ほどの見本の再現性を試みることを指示したのだ。
ただ、まだ1回しか見ていない技をすぐに真似ることはできない。他の道場生もサキと颯玄の様子を見ている。さっきまでは自分たちの稽古をやっていたが、事前にこの日から2人が稽古にやってくることは聞いていたので、知念が直接指導する様子も含めて、興味津々だったのだ。
その視線は2人とも感じていたが、さっき颯玄が知念の手首を掴んだ時よりも甘く行なっていては良くないと思っていたので、それなりの力になっている。サキにしても並の男よりも稽古している分、筋力は十分だ。
「さっき、知念先生はこの状態で颯玄の膝が地面に着くくらい崩したのか」
サキは改めて知念の何気ない動きの底の深さを感じていた。だが、颯玄の身体を浮き上がらせるどころか、掴まれた手首はビクともしないことに思わず言った。
「駄目だ、動かない」
そう言うとサキは知念のほうを見た。