「それで先生、勝負はどうだったのですか?」
「まあ、そう慌てるな。気持ちを抑えるため、ここで大きく深呼吸した。少し落ち着いたような気にはなったが、本当にそうだったかどうかは分からない。でも、そのことは久米先生の回復にも役立ったようで、そこからは久米先生の猛攻が続いたよ。わしは自分から攻撃する様な事はしない。相手の動きに合わせて対応する技だ。だが、その技が途切れず、一発でも当たろうものなら倒されるくらいの迫力がある。そういう技はその拳足を捕ろうとしても捕れない。最初の内は下がったりして躱すが、その内に下がり切れず両腕を重ねて何とか耐えた。突き、蹴り、打ち、当てと休む間もない攻撃が続いた。そのどれもが重いため、戦いが終わって確認したら、隋分あざができていた。後で医者に診てもらったら腕の骨にはヒビが入っていたそうだ。何とか衝撃を殺そうとして動いたからこそその程度で済んだと思っている。それに比べるとわしが久米先生に当てた上段突きなどは幸運の結果のようなものだ。だが、わしもそのままでいることはできない。一連の猛攻を凌いだ後、わしを倒せなかった久米先生はまた何かを考えているようだった」
話が佳境に入ってきたので、颯玄とサキの目はますます輝いている。もうこの時点で何も言葉を発していない。昔のことを今のことのように話す知念の言葉一つ一つに聞き入っていたのだ。
「こうなれば、これまでのような感じで勝負を付けるのは難しいと思った。だからわしは決心した。肉を切らせて骨を断つ、骨を切らせて命を絶つ、という意識で臨むことにした。わしも久米先生も共に武術として稽古している。もし、ここで命を失う、そこまでは行かなくてもそれで今後の道が断たれても悔いなし、という気持ちになった。久米先生もそうだったかもしれない。わしは攻撃を捕ろうという気を捨てた。突きでも蹴りでも自分の身体で受け止め、その時にできるわずかに隙にしっかり掴み、勝負を決めようと思った。久米先生も何か感じられたようで、それまでとは異なった雰囲気になった。戦いを始めた頃の構え、間合いに戻り、じりじりと自分の技の射程距離まで詰め寄ってくる雰囲気が伝わってきた。わしたその圧迫感に必死に耐えた。そして来る、と思った瞬間、突然久米先生の正拳が伸びてきた。わしにはその突きが見えなかった。だから受けることは当然できず、身体に当たって初めて仕掛けられた技が突きだったことを感じたよ。後から見ている人に聞いたら追い突きだったそうだ。その突きは見事にわしの肋骨を折っていた。それは感触で分かった。久米先生もその感触を感じていたに違いない。だから動きが止まった。わしが待っていた瞬間だ。その機を逃してはもうわしも反撃できないので、その瞬間、手首を捕った。とても興奮していたためだろうが、その時、痛みは感じなかった。両手で捕ったのだが、その腕を頭の上に持ち上げ、左の肩の上に乗せた。肘関節が乗った瞬間、わしは捕った手首を地面の方向に落とした。肘関節が折れた感触があった」
その話を聞いた時、颯玄の表情が変わった。
「そう言えば、祖父の突きを見ていると右と左の感じが違っているけど、それが原因だった
のですね」