部屋の中では祖父を前に3人が正座している。
「緊張しなくて良い。𠮟るわけではないから・・・」
面持ちも固くなっていた3人だが、この祖父の一言で緊張が解け、表情も柔らかくなった。
「そうだ、そんな感じでやっていれば良かったかもしれないな。ところで外間、ここに一緒に呼んだのはお前の昔の経験を話してほしかったからだ」
外間に祖父が何を言っているのかよく分からなかった。
「どういうことでしょうか」
「お前も颯玄くらいの時、同じようなことを経験したはずだ」
外間はその言葉で思い出した。
「知念先生のところに出稽古に行ったことでしょうか?」
「出稽古?」
颯玄とサキは互いに目を合わせ、その言葉の意味を尋ねた。
先生同士で交流があるとか、信頼関係を有する場合、自分の弟子を出向かせ、稽古を付けてもらうことだが、外間の口から出た知念という先生は投げや関節技を得意としている。ただ、祖父と同じく隠れ武士の一人であり、よほどのことが無ければ弟子を取らない。
だが、祖父から紹介となれば話は別だ。それほど祖父と知念の間には信頼関係が築かれていたわけだが、外間は話の流れから祖父が言いたいことを理解した。
「外間、お前はまだまだ知念先生から教わったことを自分のものにしていないが、颯玄を一時的に預けること、どう思う?」
「最近の颯玄の様子を見ていると、良いことだと思います。先生からも投げ技や関節技を教わりますが、違う先生から教わることで違う視点や考え方が出てくるのではないでしょうか。私は知念先生から教わったことをさらに先生から教わってもっと深いものにしたいと思っています」
「うむ、お前のことは分かった。次回からそういうことも含めて稽古内容を考えよう。ところで、サキさんは前の先生からわしのところにやってきた。出稽古ということではないが、2人の師に学んだ経験を持っている。そこから異なる師から学ぶということの長所・短所について何かあれば颯玄に聞かせてやって欲しい」
そう言われたサキは、想定外の流れ少し返答に困った。
「・・・はい。ではお話ししますが、基本の違いや技の要点など意識に戸惑いを覚えたことがあります。でも、今はここで教わっていることが身体に馴染んでおり、結果的には私に合っていたと思っています」
「そうか、多少わしに対する気遣いもあるかもしれないが、嬉しい答えだった」
祖父はそう言ったが、サキは小さく首を横に振っている。自分の答えにはお世辞は無い、ということを言いたげだった。
「で、話は颯玄のことになるが、先日の掛け試しの結果について今一つ納得できていない原因として、勝負には勝ったが納得いく内容では無かった、という解釈で良いか?」
祖父は颯玄のほうを見て、改めて尋ねた。