次の日、颯玄は道場にいた。サキも一緒だ。もちろん他にいつもの道場生がいて、各々の稽古をやっている。サキは颯玄の稽古内容を真似るような感じでやっている。
だが、その颯玄は稽古に今一つ熱が入っていない。その様子はサキも感じている。
そういうところに、祖父がやってきた。
「颯玄、何をやっている。全然気持ちが入っていないぞ。これまでと全く違う。何かあったのか?」
祖父が尋ねた。サキには思い当たることがある。昨日の掛け試しのことだ。結果的には勝ったが、その後から颯玄の様子がおかしいことに気付いていた。
「先生、実は・・・」
サキが何か言いかけようとした。その時、颯玄はサキの顔を見た。その様子にその後のサキの言葉は無かった。
「そう言えば昨日、2人とも稽古に来なかったな。どこかに行っていたのか?」
祖父のその言葉で他の道場生から視線が一気に集中した。この時点ではサキの心は颯玄のことで一杯ということは知られていたし、後は何時颯玄がサキのほうを振り向くか、という目で見ていたのだ。祖父のこの言葉で思わず笑みを浮かべる者もいる。2人の付き合いが始まっている、と考えている様子なのだ。
そのことに気付いた颯玄は言った。
「実は昨日、掛け試しの場に行ったんです」
「戦ったのか?」
「いや、そういうつもりで行ったのではなく、他の人たちの戦いぶりを見たかったんです。サキもその場所にいて・・・」
「2人で行ったのか?」
祖父の問い掛けにサキは首を縦に振った。
「それで?」
「周りから煽られて結局戦うことになりました」
「今日の元気の無さは負けたからなのか?」
「いいえ、勝ちました。でも・・・」
颯玄はその言葉の後、また黙り込んだ。
祖父はサキに尋ねた。
「どういう戦いだった?」
「何か颯玄らしい戦い方ではなかった。突きを捕られて転ばされたりした。そこ攻撃を続けられたら負けていたかもしれない。でも、相手はそれをしなかった。近くの人に話を聞いたら、前に対戦相手の関節を折って勝ったと言っていた。関節技が得意だったようで、もしかすると颯玄はそういう戦い方について、何か考えることがあるのでは・・・」
サキは颯玄の様子を見て感じたことを祖父に告げた。
「・・・颯玄、そうなのか?」