これは周りの耳目を集めることになり、それに対して別の声も聞こえた。
「金城、頑張れ。もしかするとサキはお前に興味が移るかもしれないぞ」
その言葉に周りの雰囲気が変わり、少し緩んだ感じになった。
しかし、颯玄と金城には関係ない。掛け試しとして対峙した以上、互いに持てる力を出し合い、全力で戦うのみだ。2人は向かい合った時から別の空間にいたのだ。
一礼をして2人は構えた。
颯玄はいつもの通りの構えだが、金城は左足を前には出しているだけで、両上肢を構えることはない。いわゆる自然体だ。颯玄はこういう構えの相手と戦ったことは無いが、道場で形の解釈を学ぶ時は同様の構えで対峙したことがあるため、実際にはやりにくいという感覚はない。むしろ、そういう稽古の時を思い出し、組手一般でよく経験する状態よりもやりやすい、という感覚すらある。
ただ、それを実戦でという場合、相手がその状態からどのように変容するかは分からない。
ということで颯玄は先手を取り、相手の出方を伺うことにした。
しかし、その時点では本気の攻撃ではない。相手としたらそれを待ち、後の先を狙っている可能性があるため、当たる間合いギリギリを意識し、前手による上段刻み突きを放って見た。あくまで相手の反応を探る攻撃だったため、すぐに引いたが、金城はそれを受けるということではなく、捕ろうとした。颯玄はすぐに引いたので捕られることは無かったが、ここから金城の戦い方が颯玄に分かることになった。
「相手の四肢を捕り、投げや関節技に持って行く戦法か。そういう技も稽古しているので簡単には掛からないつもりだが、そういう技に長けている相手だと経験値の違いから思わぬ展開になるかもしれない。用心して掛からないと・・・」
颯玄はこの一手で金城の技を読み、戦い方を考えた。
「さっきは突きで様子を見たが、そういう技は相手にとって対応しやすいのではないか。けりだったらどうだろう」
と思い、今度は前蹴りで仕掛けた。蹴りの場合、その瞬間は片足で立つため、その状態が長くなると、自身の不利を招くことは熟知している。
それでも蹴りで仕掛けたのは、颯玄に作戦があったからだ。
そういう意識で蹴ったが、金城はギリギリ当たらない間合いを読んで前足を引き、後方に下がった。そして同時に、颯玄の蹴りが最も伸びたと思った瞬間、左手で足首付近を下から掬うような感じで撮り、右手で膝関節の内側に触れようとした。
投げや関節技を得意としている金城の動きは素早かったが、颯玄は捕られることを見越した上での蹴りだったので、受けがきちんと機能する前に強く地面を踏み抜くようにした。金城の手が颯玄の足首に触れた瞬間、体重を乗せるような感じで腰と上体を金城のほうに移動したのだ。想定外だったのは金城のほうで、捕るつもりだった手は外れ、それでも捕ることを意図していたため、颯玄の下肢の動きにつられ、自身の姿勢が前傾した。
颯玄も体重を乗せる関係で上体が金城のほうに近づいていたので、その時の間合いから金城に頭突きを放った。颯玄としては顔面を狙いたかったのだが、金城の崩れ方が想像よりも浅かったため胸部に当たった。
そのためそれで倒すことはできず、金城はその攻撃で2歩ほど下がり、その状態で体勢を立て直した。