また勝負は振出しに戻ったが、互いの闘志・集中力には全く陰りが無い。
互いに気を練り、今度こそといった気迫が周囲にも分かるくらいの状態になっている。
気が満ちたと思ったのは、同時だった。その瞬間、2人とも構えを崩すことに間合いを切り、中段逆突きを同時に放った。
その瞬間、火花でも散ったかのような乾いた音がした。互いの突きが相手の腹部を捉えていたのだ。そこに受けは無い。その様子はまるで一幅の絵画のような美しかった。
相打ちだった。渾身の技に2人とも膝から崩れ、手を地面に着いた。
「止め、それまで」
祖父はここで戦いを終わらせた。
「相打ち。この勝負、勝者・敗者無し」
判定が下った。
颯玄も真栄田も互いに息が切れている。相手の突きが堪えている様子が周囲にも伝わる。誰も祖父の判定に異議を唱える者はいない。2人を称える拍手が沸き起こった。もちろん、サキも顔をほころばせ、一生懸命手を叩いている。
「颯玄、たった1ヶ月で強くなったな。見直したよ」
真栄田は手を颯玄に差し伸べ、握手を求めた。颯玄もそれに応えた。
「先生、颯玄はこれからもっともっと強くなりますよ。俺ももっと修行します。掛け試し、颯玄にとっては良い修行になったようなので、これからも認めてあげてください。俺も機会を見つけてやってみます」
颯玄の変化に触発された真栄田はますますの精進を祖父に誓い、同時に掛け試しにも言及した。祖父はその言葉に笑みを浮かべながら、首を縦に振っていた。真栄田は颯玄のほうを見て、笑みを浮かべながら目で自分の気持ちを表していた。
この後、祖父は他に組手をやりたい者を募ったが、颯玄や真栄田、そしてサキの戦いの後に手を上げる者は誰もいなかった。それでこの後、形になり、一通り行なったところでこの日の稽古は終了した。