体格で言えば真栄城のほうがサキよりも大きい。年齢も上だ。
そういうところから真栄城は心理的に圧迫しようというのか、自分の方から間合いを少しずつ詰めてきた。
手を伸ばして届くくらいの間合いになる時まで、両者に特別な動きはない。しかし、見ている立場からすれば緊張する。
そういう空気感の中、真栄城はサキの頭部を狙って右上段回し蹴りを放ってきた。
通常、こういう状態でいきなり上段蹴りを放つことは無い。それでも出してきたというのは真栄城に何らかの考えがあってのことだろうが、サキの頭部に届く際には、視界から外れている角度からになる。つまり、サキの左側方から蹴りが飛んでくる感じなるわけだが、奥足による蹴りなので、技の起こりについては視認できる。それが途中で見えなくなるということは上段を狙っていることから明白だ。サキは掛け試しも含め、多くの空手家との対戦経験がある。こういう場合も経験もあることからその対処も真栄城が間合いを詰めてきた時から想定していたことの一つだった。サキは左側頭部付近に両上肢を支え受けのような感じにし、蹴りに対する防御を意識した。
ただ、サキは後退することなく、むしろ前進した。
この動きは真栄城にとっては想定外だった。真栄城とすれば上段蹴りを放てば本能的に頭部・顔面を守るため後退するだろう、そうしたらそのまま追い込んで極めるつもりでいたのだ。サキが女性であるがゆえに、特に顔面に対する攻撃には苦手意識があるのではということからの攻撃であり、もし何も反応しない場合は当てる前に蹴りを止め、サキに負けを認めさせようという思惑もあった。
ところが、後退するどころか逆に間合いを詰めたことに、驚いたのは真栄城のほうだった。
そしてその時、サキは単に受けながら間合いを詰めたのではない。真栄城の蹴りが前腕に当たった瞬間、サキは前足で真栄城の軸足を払ったのだ。蹴りのために1本足になっている真栄田は一瞬地面から足が離れ、転倒した。
間合いの関係からサキが下段突きを放てばそれで勝負がついたはずだが、あえてサキはそうしなかった。だが、その様子は明らかに真栄城が負けた瞬間だ。現代の大会などでは審判が入り、戦いを中断し再開させるような場面だが、ここで颯玄たちが学ぶ空手は武術であり、死に体になった時には勝負はついている。あえてここで追加の攻撃をし、不必要に怪我をさせることが無いようにすることも稽古では大切だ。
もしかすると道場では先輩になる真栄城に対する気持ちも関係しているのかもしれないが、サキは真栄城に手を貸し、立たせた。その時、見ていた他の道場生から拍手が起こった。
真栄城は照れ臭そうに頭を搔きながら立ち上がり、苦笑しながら「強いな」という言葉を発した。この様子に真栄城も含め、サキの強さについてはみんなが理解することになった。
こういう展開になり、雰囲気は盛り上がったが、次の組手希望者を募ったところ、颯玄が手を挙げた。そして対戦相手には真栄田を指名した。