周りを取り囲まれ、いろいろ質問されているサキを尻目に気合を入れたその場突きをやっていると、サキがみんなの囲みから逃げ、颯玄の横で同じように突きの稽古を始めた。周り板道場生は気まずくなり各々の稽古に戻ったが、颯玄とサキの様子を横目で見ながらの稽古になり、とても集中しているようには見えない。
それなりの数をこなした颯玄は続いて蹴りの稽古を始めた。サキもそれに合わせて同じように始めたが、互いに何か話すことは無く、黙々をやっている。そうなると周りの道場生たちも浮付いてばかりいられないと、少しずついつもの雰囲気になっていった。
颯玄は自分の稽古に集中していたが、隣で稽古しているサキの様子は目に入る。まだ基本の段階だが、やっている内容は颯玄が道場で教わっている内容とほとんど変わらない。これならすぐに稽古にもなれるのではないかと、少しホッとする颯玄がそこにいた。ただそれだけのことだが、稽古で嫌な思いをさせるのは可哀そうだという気持ちが根底にある。
基本稽古を一通り終えた時、颯玄はサキに形を見せて欲しいと言った。サキはそういうことを言われるとは思っていなかったので意外だったが、その申し出を快く受けた。ちょうどその時、祖父も姿を現したし、他の道場生もサキの形を見せてもらうことになった。
みんなはサキの正面に位置し、視線を集中させた。
サキは身体の正面で十字を切り、呼吸を整えた。
用意の状態から左足を1歩踏み出し、猫足立ちになった。左手刀を身体の正面で上から大きく回し、前足のかかとを落としたら、右手刀を左と同じような感じで大きく回し、左の手首に重ねた。形名を言って始めたわけではなかったが、特徴的なこの動作から鎮東という形であることが分かった。
鳥の動きを参考に編まれた形で、跳躍や伏せたりと変化が激しい。この形をここで演じたということはサキの得意形なのだろうが、そこから掛け試しでの戦いのことが思い出されていた。
颯玄がサキの足を捕った時、片足だけで飛び上がり、回し蹴りで攻撃したところなどはこの形で作り上げた身体の使い方を応用したものだろう。跳躍力も十分であり、空中での身体の切り返しも見事なものだ。
下手に使うと、飛び技というのは相手に読まれやすく、隙もできやすい。そのような技を初めて手合わせする相手に放つというところから、精神力は大変強いに違いない。改めてサキの形を見て戦いを思い起こしてみると、そういう気がしてならない。
基本のところでも分かっていたが、形として見ると微妙な手の使い方、身体の動きが分かり、その実力が理解できた。