「突然そういうことを聞かれてもうまく言えないけれど、稽古していた技が実際の戦いで使えることを知った。基本や形、約束組手までは何度も叱られながらやっていたけれど、正直、こんなことばかりやっていて本当に強くなれるかと疑問だった。だから、今の実力はどういう状態なのかと思い、つい真栄田さんに組手を申し込んだ。でも、俺の前蹴りが手刀下段払いの一撃で勝負がつき、自信が無くなっていた。そして許されていない組手をやったことで稽古ができなくなった。いろいろな意味で自分のことや空手に対して疑問が出た時、昔からの友達の上原に誘われ、掛け試しの見学をした。自分がこれまでやらせてもらえなかった組手をやっている。しかも初めて会った人と戦える。自分の実力がどの程度かは分からなかったが、ここでその実力が測れるかもしれない。でも同時にもし負けたら、という思いもあった。誰から教わっているのか分かった時、迷惑をかけるかもしれないと思ったんだ。でも、先生や道場の名前を言って戦うわけじゃないし、もし俺が負けても無名の若造が単に負けただけで、誰にも迷惑をかけないのではとも思った。そうなると戦いたいという思いで一気に心の中が満たされ、やってみようという気になった。そしてやってみると、勝った。その中には掛け試しで連勝中の強い人がいた。でも、勝った。組手という稽古はしていなかったものの、改めてこれまでやってきたことが強くなるために意味があったと気付いた。でも、やるなと言われていたことをやったことで、今度は本当に破門だよね。ごめん」
颯玄は掛け試しについて思っていたことを一気に話した。祖父と外間は目を合わせて少し微笑んでいるような感じに見えた。颯玄にとって、その光景は少し異様だった。自分が思っていた展開と異なるのだ。
「颯玄、お前は知らないだろうが、先生は昔、掛け試しの久米と呼ばれて、その界隈では有名だったんだ。俺はお前が掛け試しに出ていることについて先生に話すのを躊躇していたのは、やはり蛙の子は蛙なんだなと思いつつ、もうお前の稽古も次の段階に入っても良いのかなと考え、相談しようと考えたからだ。先生はまさか稽古停止の時、掛け試しをやるとは思っていらっしゃらなかったようだが、もう少し稽古を重ね、道場で少しずつ組手にも慣れさせ、その上で掛け試しの話をしようとお考えだったんだ。この1ヶ月は一旦冷却期間を置き、お前の考えや心の状態を見た上で今後をお決めになるつもりだった。なお、さっき蛙の子は蛙と言ったが、蛙の孫は蛙と言う風に訂正しておく」
外間は真剣な話をした後、ちょっとだけ場が和むような雰囲気で言った。
この外間の話に颯玄は驚いた。自分が知らない祖父の過去や考えに、心も身体もその時、固まっていた。
「今日からお前も道場で組手をやって良し。だが、戦いでは心の強さも必要だ。だからこれまでの稽古に加え、禅や滝に打たれるといった修行もやってもらう。いいな」
願ってもない言葉だった。自分の心配とは真逆で、むしろ良い方向になっている。断る理由はない。むしろ大歓迎だ。颯玄の顔が一瞬にして輝いた。