颯玄が稽古停止を言い渡され、約束の1ヶ月が経った。
久しぶりに祖父の下を訪ねた颯玄は、稽古に参加することなく、そこにいた稽古生の一人からまず祖父の部屋に行くように言われた。
「入ります」
颯玄は一声かけて部屋に入った。そこには祖父以外に外間がいた。颯玄は何故、といった顔をしていたがその理由は分からなかった。
「颯玄、お前は稽古停止の期間、何をしていた?」
思わぬ祖父の質問に言葉が出なかった。
「掛け試しを知っているか?」
外間が言った。颯玄はサキと戦った時、外間が湖城を破った若者がいるという話を耳にし、掛け試しの場に行っていたのだ。そしてそれが颯玄と知った時、そのことを祖父に報告しようか迷ったまま、この日まで黙っていたのだ。3人揃ったところで外間が話し始めた。
「俺は先生から稽古を差し止められたお前の様子をそれとなく見ているように言われていた。だからお前かもと思われる名前を聞いた時、確認に行ったのだ。そうしたら、本当にお前だった。驚いた。大人しくしているものと思っていたし、そもそも組手は禁止されていたはずだ。黙って真栄田と組手をやったことで稽古停止と言われたはずだ。それが他の道場の者と掛け試しとは・・・。そのことはさっき、先生に話した」
外間はそう言うと黙ってしまった。祖父は外間の話を静かに聞いていた。
そこに静寂の時間が流れた。颯玄は針の筵に座らされた気持ちになっており、立ったまま呆然としていた。
「知られていたのか・・・。こうなったら本当に祖父から教えてもらえなくなるかもしれない」
颯玄は心の中は空手ができなくなることへの恐れで満ちていた。
「・・・戦ってみてどうだった?」
祖父が重い口を開いた。その口調は静かだったが、それがかえって不気味だった。ここでは大声で叱られることを覚悟していたからだ。それが戦った感想を聞かれた。颯玄の頭の中は少し混乱していた。
「どうって言われても・・・」
予想していない祖父からの質問に困惑した颯玄には、その言葉が全てだった。そこに外間が言葉を挟んだ。
「戦って感じたことがあっただろう。相手の力量とか、戦いの後の感情とか、後悔や反省といったことだ」
「反省って、掛け試しをやったことそのもののことなのか、戦い方などについてのことなのか? どう答えれば良いんだろう」
颯玄はそう考え、答えに窮した。
「今、お前に問いかけているのは禁じていた組手を掛け試しの場でやったことではない。戦った時のことだ」
祖父の言葉に颯玄はキョトンとした表情になっていた。てっきり掛け試しの場で戦ったことに対するお咎めがあるものと考えていたので、この言葉は意外だった。