この展開にサキは驚いた。そしてそれは想定外だったため、サキの動きは一瞬止まった。
颯玄としては間合いのこともさることながら、想定外の状態による心の隙ができるのを待っていた。
その機を逃さず颯玄は、右腕をサキの首の右側から巻き付けるような感じで回した。サキは受けの際、左足を引いているので左側が開いているような状態になっている。こういう様子を作ることを意図していたが、その通りになったのでそのまま首をサキの左下方に引き倒すことにした。崩しや倒しを意識する場合、立ち方を考慮することは大切で、その上で目的に準じた方向を考える。重力を活用する意識は不可欠で、強引に遠くへ飛ばそうとしては逆効果になる。
サキの場合、普通に立っている時ならば、たとえ立ち方としては弱い方向であっても易々と崩されることは無いだろうが、一瞬の隙を衝いてのことだったので、不覚にも両手を地面に着いてしまった。
颯玄はその瞬間、サキの背後から突きを入れたが、既に死に体になっているので当てることは無かった。
サキの視界にその突きは入っていなかったが、気配で颯玄の攻撃が自分の背面を捉えていたのは分かっていた。
「負けた」
手を着いたまま、サキは言った。
颯玄はサキの手を取り、立ち上がらせた。
「お前、強いな。最初、軽く考えていたけれど、上段突き、効いたよ。あの時、咄嗟に頭を動かしていなかったら、そのまま気絶していたな。そうならなくても口の中はズタズタだけど」
微笑みながら颯玄はサキに言った。
そういう颯玄を見て、サキの表情も和らいでいた。