数日後、颯玄は再び辻にやってきた。サキは前回訪れて以来、毎日この場を訪れ、颯玄を待っていた。
前回のサキの戦いは、掛け試しを知っている若者の間で一気に広まり、この日も周りから注目を浴びていた。中には交際を申し込む者もいたが、サキにとっては全く関心がない。毎日ここに来ているのは颯玄と会い、試合を申し込むことが目的だ。
この日、颯玄は戦うことを目的として訪れたわけではなく、他の者の戦いぶりを見ることだった。だからなるべく目立たないようにしているつもりだったが、サキに見つかってしまった。
「颯玄、オレと戦え!」
サキは集まりの中で大声で言った。当然、周りの耳目が集まる。サキの狙い通りになったが、颯玄は首を縦に振らない。
そこでサキは颯玄の手首を掴んで、みんなの前に進んだ。
「オレはこれから颯玄と戦う!」
サキがみんなの前で宣言した。突然のことで颯玄は困惑したが、大勢の前で女性から挑戦され、逃げるようではメンツが立たない。颯玄はそう思ったし、サキの狙いもそこにあった。
もちろん、颯玄も空手を学んでいるので、手首を掴まれた時に振りほどくことは容易にできたが、そうすると周りからどう見られるのか分からない、という思いでこういう状態になった。完全にサキの思惑通りの流れだが、こうなったら戦わないわけにはいかないと颯玄は思った。
サキの実力は喜友名との戦いを知っている者にとっては侮れないことは理解しているが、颯玄はそのことを知らない。そのため、適当にあしらい、負けを認めさせようと考えた。
不本意ではありつつも、戦うことを決めたらきちんとしなければならない。互いに一礼し、対峙した。ここまではいつもの通りだ。
しかし、目の前にいる対戦相手は女性で、颯玄としてはどうも勝手が違うと感じている。相手が男性であれば空手としての勝負という意識で臨めるが、どう扱って良いのか分からない。サキのほうは男性としか戦っていないので、性別の違いを活用することは無い。サキはもともと男勝りの性格で、自分のことをオレと呼ぶのもその表れだ。
互いに動かない状態について、颯玄が戦いを躊躇っているように見えたので、サキが大声で言った。
「どうした、怖いのか。湖城と戦った時の気迫はどうした。女のオレに負けるのが嫌か」
わざと周りの全員に聞こえるような声で颯玄を煽り、また、観衆を自分の見方につけ、否が応でも本気で戦う方向に持って行こうとした。
それでもなかなかその気になれない颯玄がそこにいた。