サキのほうは喜友名の間合いの取り方からどういう風に対応しようかと考えていたが、仕掛け技が考えた通りとは限らない。だからしっかり観察し、先の取り方を考えていた。
今度の技で極めようという喜友名の心は、間合いを詰める時の気迫で分かる。中途半端な先の取り方では逆効果もあると考え、肩・上肢が動くか下肢が動くかを見ていた。
気が充実した瞬間、喜友名の膝が正面にかい込まれた。その動きから前蹴りであることはすぐに分かった。
喜友名の実力は形やこれまでの攻防で感じていたので、体捌きを伴った対応をした。こういうところは刹那の時間の判断であり、そういう状態でも対応可能な武術体の存在が必要になる。それなりの自信がある者同士が戦うのが掛け試しなので、相手の技を感じた瞬間、自身の対応を決めることができるような腕自慢が集まる。
ということでサキが実際に行なった動きは、転身を活用した体捌きだった。サキは正面を向いていたが、喜友名の前蹴りに対して身体を90度転身させた。もちろんそれに伴い立ち方も変化させ、
そのため、前蹴りが伸び切った時、その蹴り足はサキの正面に位置していた。もちろんそれは瞬間的な状態であり、サきはそれを反撃の糸口にした。サキの両上肢が
そしてそれぞれの上肢は喜友名の下肢にしっかり作用している。右側は喜友名の下腿部を下から掬い上げるような状態になっており、左側は膝関節の内側に当たっている。
それは瞬間的な接触時の様子だが、戦いはそこで止まっているわけではない。両者の技が交錯した次の瞬間、サきは弓勢の状態をさらに強調する様な動きを行ない、外受け側は上方に上げ、下段払い側は地面のほうを意識して、それぞれ異なった方向に動かした。
そうなると喜友名は立っていられない。そのまま地面に転倒したが、サきはその瞬間を逃さず、下段突きを放った。こういう場合、危険防止のために実際に当てることはしない。倒れた状態は死に体であるし、地面の存在が攻撃の衝撃を逃がさないようにしているため直接当てると危険なのだ。
もちろん、倒されても極めまでモタモタしていればそこからの再反撃も可能なので、必ずしも倒されたら負けということは無いが、一連の流れとして淀みが無い場合、極めと考えられている。今回の場合、その条件に合致していたと喜友名が判断し、起き上がった時、自身の負けを認めた。こういう時、変に強がって負けを認めない、といったこともあるが、喜友名はそういう男ではなかったのだ。これでサキの勝利が確定したが、観衆からは両者に拍手が送られた。同時に、この一戦でサキの名前と評判がさらに上がった。
しかし、サキは颯玄が気になっており、ぜひ対戦したいという思いだけが募っていた。
喜友名との対戦後、握手を求められ、同時に再選を申し込まれた。だが、サキには一度だけしか戦わないという自分なりの決まりごとがあるので断った。