3日後、辻を訪れた颯玄たちは前回以上の人だかりに驚いた。そしてそこには湖城の姿もあった。
颯玄は観衆の真ん中に出て、言った。
「この前、試合したいといった人、いますか? 全員とやることはできないけれど、最初に手を挙げた人とやりましょう」
その言葉に反応する人はなかなか出ない。颯玄がやはりこの前の声はただの勢いでのことだったのかと思っていたら、湖城が言った。
「この前、俺と颯玄が戦った時はやりたいと言っていた奴がいたよな。今日はそう言っていた奴はいないのか? はったりだけだったら掛け試しをやる資格はないぞ」
前回までいわゆる掛け試しの代表だったような存在だった湖城の言葉に、集まった若者たちはざわついた。
すると、様子を静観していた一人の人物が手を挙げた。
「お前、新垣じゃないか。どうしてここにいる」
驚いたのは湖城だった。実は新垣は湖城の後輩だったのだ。湖城とは同じ道場で稽古していたが勝ったことが無かったため、本当に倒した相手がいるのか、といった気持ちで来ていたのだ。
「俺は湖城さんを倒したという奴の実力が知りたい。だからここにきて今日の掛け試しを見るつもりだった。でも誰もいないようなので、俺が手を挙げた。颯玄といったな。俺の挑戦を受けるか?」
その言動から少々無作法な印象を受けた颯玄だが、それは受けない理由にはならない。湖城の後輩ということもあり、前回の勝ちが本物だったかどうかを確認する意味でも対戦を受けた。
周りの観衆も、そういう因縁めいたところでの対戦に否応なく盛り上がった。
新垣は颯玄の前に立った。観衆の中央にいる。もちろん、戦いに必要な広さは確保されている。
だが、興味深い対戦ということもあり、見ている側としては少しでも前で見たいという気持ちがあるので、前回よりも狭く感じるような状態だ。
颯玄としては見せるための意識はなく、あくまでも自分の修行の一環のつもりだ。新垣にしても人に戦いを見せることが本意ではない。そういうこともあるのだろうか、互いに視線を合わせた後は目線を周りに向け、その様子にうんざりしているようだった。2人はほぼ同時にそういう仕草をしたが、颯玄はその様子に新垣が浮付いた気持ちでここにいるのではなく、最初に言った通り、湖城を倒したという実力を確かめたいという意図でいることを確認した。