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颯玄、熱情 1

 颯玄は17歳になった。祖父の下で再修行に入り、6年が経っていた。

 再入門以来、稽古のことには何も言わず黙々と修行に励んでおり、技を教わりつつその裏の部分についてもいろいろ学んでいた。最初の頃はそういうことにあまり興味が無かったというのが本音だが、経験を積み、年齢が上がってくると生来の向上心が作用したのか、そういう稽古が楽しくなっていた。

 久米家の歴史、空手・武術の歴史、武道哲学、身体の仕組み、活法術など、普通の稽古では学べないような分野まで教わった。まだこの頃の颯玄には理解しがたい内容もあったが、可能な限り祖父から吸収した。

 まだまだ知識面でも学び足りないところがあることを感じていたが、表芸である武技の修行も怠ることはない。そもそもそちらの方の関心が高かったからだが、祖父のところから帰った後でも自宅のそばで一人で稽古していた。

 祖父のところでの稽古も、年齢に応じて変化しており、小さなころは祖父と2人だけで稽古することが多かったが、15歳の頃になると、祖父が他の時間帯で教えている年上の人たちとの稽古も行なわれていた。年齢的には近いものの全員年上で、やはり長年祖父から教わっているだけに、組稽古をしていても技の力や速さに圧倒されることもある。

 稽古自体はみんな一緒に同じことをするのではなく、それぞれが稽古しているところに祖父がやってきて必要なことを個別に教える、というカタチで行なわれ、その中で組稽古という場合もある、といった感じだ。大人の人が稽古している中には、颯玄がまだ教わっていない形や技を見ることがあるが、祖父の許可が無ければ教われない。何を基準にそうなっているのか、颯玄には分からなかったが、17歳になった今は何となく分かるような気がしていた。

 そんなある日、颯玄は本当の自分の実力は、ということを考えていた。

 隣ではいつもの約束組手では押され気味の真栄田が形の稽古をしている。いつも通りの迫力ある技であることを感じていたが、ふと、もし今、本気で戦ったら勝負はどうなるだろう、という気持ちが湧いてきた。これまでは祖父の目もあり、約束組手までしかやらせてもらっていない。

 颯玄なりにある程度稽古を重ねたつもりでいたので、腕試しをしたいという気持ちが出てきたのだ。その意識は少し前からあったが、一線を超えられないでいた。

 しかし、この日は真栄田の技がすごいと感じたからこそ、自分の実力がどこまで通じるかということを試したいという思いが急速に高まった。

 幸い今、祖父はいない。もしいたら行動は起こさなかっただろうが、恐る恐る真栄田に自由組手を申し込んだ。


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