「形は武術の大切な稽古方法で、空手に必要な技がたくさん入っていて、強くなるためには絶対に学ばなければならないと思っている。それが学校の勉強のようなことをさせられるという意味が分からない」
颯玄は強い口調で言った。
「ふむ。では、強くなるとはどういうことだ」
「人と戦って打ちのめすことだ」
「それも確かに現実的なことで、そういう力を身に付けることは必要だ。だが、それだけで良いのか? もしお前が負けた立場になったらどうだ?」
「悔しい。だからもっと稽古して次は勝つ」
「それも良いだろう。だが、ずっとそういうことを繰り返すのか? それならいつまでも終わらない戦いが繰り返されるだけではないのか?」
「それでも良い。俺は空手、武術というもので強くなることを目標としたい」
「そうか、それなら今、わしと立ち会うか? 勝つまで何度でも戦うか? もしかすると、今戦うことでお前は手足が一生使えなくなるかもしれないし、もしかすると打ちどころが悪くて死ぬかもしれない。そういう可能性があっても戦うか?」
「嫌だ。やっても結果は分かっているし、戦いたくない」
「そうか、それが正直な気持ちだろう。ある時期が来たら、実際に戦うという経験も必要になるが、ただ突き進むばかりではイノシシのようなものだ。人間は闘争心があってもそれを止める部分が必要だし、修行の一環として戦う場合はお互いが限度をわきまえ、素直に負けを認める心構えができればやっても良い。しかし、今のお前のように、自分のことばかりしか考えられないようでは本当の武術、空手は学べない。空手は君子の武術といって、単なる闘争のための手段ではなく、いざという時、自分や家族を守るための技だ。そういう意識をお前にも伝え、久米の家伝の技を習得してもらいたいと思っている。そのためには形を単なる動作、あるいは技を集めたものと考えるのではなく、その奥にあるところを学ぶことが大切で、その上で実際に身体に覚え込ませる。それが久米の家の教え方だ。だからお前が本気で学びたいなら、まずは座学でこの形の意義を知り、身体を動かす時、一つ一つの動作にその心を投影するようにするのだ。そうすることで形に魂が入り、同じ動きでも他と違ったものになるんだ」
颯玄には祖父の説明のほとんどが理解できなかったが、その気持ちは何となく感じたような気がした。まだ心の奥に引っかかっているものはあるが、まずは座学という過程を踏まなければその先が無いことは分かった。だから、ここは祖父の言う通り、家の中に入り、祖父の話を聞くことになった。