ある日、怪獣が現れたと学校のクラスメート達から聞いた少年は、怪獣が出現したという森にやって来ていた。けれど、それはクラスメート達が少年を揶揄う為についた真っ赤な嘘だった。少年は普段から怪獣の話ばかりしている怪獣愛好家で、クラスメート達からいつも馬鹿にされ、時には虐められていた。それでも彼は怪獣を心から愛し、怪獣の存在を頑なに信じていた…。
少年は森の中を歩いていると、2つの洞穴を見つけた。
「どっちへ行こう…よぉし、こっちだ!」少年は右の洞穴へと入っていった。
懐中電灯を照らして、少年は奥へと進んだ。すると、少年は何やら動く小さな物体を発見した。
「あれはなんだろう…?」少年は近づいて見てみると、実に奇妙な生物だった。体形は球のように真ん丸く、皮膚は薄紫色で、イルカやシャチのようにツルツルとしていた。大きさは野球ボールくらいだろう。愛くるしいつぶらな2つの目をキョロキョロと動かしていた。それは、遠い銀河の果てから地球にやって来た宇宙怪獣だった。
少年はスマホを取り出し、怪獣を撮影しながら観察した。
怪獣は少年を見ると、小さな牙が立ち並んだ口をパクパクさせた。
「お腹が空いているのかな?」
少年は、持っていたチョコレートを一かけら食べさせた。怪獣は、もっと欲しいと言わんばかりにチョコを強請った。
少年がチョコを差し出すと、怪獣は持っていたチョコを丸ごと全部ペロリとたいらげてしまった。
「食いしん坊な怪獣だなぁ」と、少年が思ったその途端、怪獣の身体は徐々に膨張し、直径75㎝の大きさにまで急成長した。すると、宇宙怪獣はごろごろと転がり外へ飛び出した。少年は怪獣の後を追いかけた。怪獣はまだ食べたりないのか、草をむしゃむしゃと食べ始める。食欲旺盛な怪獣の食べた後は、草刈り機で刈ったように雑草一本も残らなかった。
怪獣は大木の幹に噛付いた。幹は鋭い歯で削られていき、倒れそうになると、怪獣はガッと大きな口で咥え込んで頬張り、シュレッダーのように大木をバリバリと食べていく。
「すごいすごい!もっと食べろ!もっと食べろ!」見ていて面白くなった少年は興奮し、ライブ配信を始めた。森の木を次々と食べていく怪獣は、食べれば食べるほど、みるみるうちに巨大化していき、全長は300mにまで成長した。
市民からの通報を受けてやって来た警官隊は、その未知なる異様な怪物に驚嘆し、直ちに自衛隊に救援を要請した。
知らせを受け、戦車隊と戦闘機隊が宇宙怪獣を迎え撃った。
「砲撃ぃ!開始!!」号令と共に、戦車隊が怪獣目掛けて一斉に砲弾を放った。空からは戦闘機隊が変態を組み、ミサイルで攻撃する。だが、巨大化した怪獣にとっては蚊に刺された程度にしか感じない。
「いいぞいいぞ!戦車なんか蹴散らしちゃえ‼」少年は叫んだ。
怪獣は口をグワッと開き、戦車と戦闘機をブラックホールのごとく吸引し始めた。
「退避ぃ!!退避しろぉ‼」だが時すでに遅く、戦車隊と戦闘機隊は為す術もなく、一台も残らず吸い込まれて全滅した。
「すごぉい‼」少年は大喜び。ライブ配信映像は瞬く間に世界中の話題となった。
戦車と戦闘機を食べてさらに巨大になった怪獣は、何事もなかったかのように森を食べつくすと、今度は山を食べ始めた。
数時間後、怪獣が一眠りしていると、上空から1機の飛行機が飛んできた。
「なんだあれ…?」少年が眺めていると、飛行機から何かが落ちてきた。それは核爆弾だった。少年のライブ配信を見た某国が、自国に怪獣が上陸する事を恐れて、禁じられた決断を下したのだ。
投下された核爆弾は、怪獣の頭上に落下していった。だが、怪獣は気配を察知し、落ちてきた核爆弾を飲み込んだ。飲み込まれた爆弾は体内で核爆発し、そのショックで怪獣は上空に勢いよく舞い上がった。怪獣はどんどんと空に昇り、大気圏を抜け、宇宙に飛び出した。核エネルギーを吸収した怪獣は、身体をさらに膨張させて、ついには地球よりもはるかに巨大な姿に変貌した。その途方もない大きさは、地球からも見ることができた。
「大怪獣の誕生だ‼バンザーイ‼宇宙怪獣バンザーイ‼」大はしゃぎする少年。だがそんな事を余所に、怪獣は地球を見るな否や、超巨大な口を大きく開けて、地球をぱくりと頬張った。飲み込まれた地球は、怪獣の体内で跡形もなく消化された。
そこへ、1隻の宇宙船がやって来た。宇宙船には異星人が二人乗っていた。
「成功したな」一人の異星人がもう一人に言った。「これで危険生物のいる惑星がまた一つ処分できたわけだ」
「しかし、自分たちの武器によって母星を失う結果を招くとは、なんとも皮肉な話だ」
2人の異星人が話していると、宇宙船に通信が送られてきた。それは怪獣からのテレパシーだ。異星人は怪獣のテレパシーを解読した。
「『おなかが空いた』と言っている」
「あれだけ食べたのにまだ空腹なのか…。我が星の科学者たちもとんだ食いしん坊を作ったものだ…」
異星人たちは次なる危険生物のいる惑星を求めて、宇宙怪獣を連れて銀河の彼方へと飛んで行った。