■焔の神殿 ダンジョン部 焔の祭壇
どれだけ倒れていたのかわからなかったが、俺は目を覚ます。
腹の痛みはなくなり、うっすら開けた目にはレイナの顔があった。
「ジュリアン! よかったわ、今大変やねん。イフリートがフレデリックの体を乗っ取ろうと同化し始めている最中なんやけど、防御が固くて防げないんや」
端的に状況を聞いた俺はレイナに肩を借りながら立ち上がる。
まだ体がふらつくが、魔法の飛び交う音や、近接攻撃を仕掛ける声が響いている中ではゆっくりもしてられなかった。
「よかった、目が覚めたのね。ごめんなさい、あなたが寝ている間に決着を付けたかったのだけど……」
アリシアが魔法を放ちながらも、立ち上がりレイナに肩を借りながら近づいていく俺に声をかけてくれる。
声に覇気がなく、綺麗な顔が苦悶に歪んでいた。
俺がフレデリックにやられた後で、いろいろあったようだがどうしたものか……。
人質を取られて、人質にはバリアがあるようだ。
「死にぞこないの兄貴ガァァァァ! シネェェェェェ!」
フレデリックが俺に気づき、俺へと
イフリートもそれに引っ張られて力を使っているのか同化が止まったように見えた。
「フレデリック様は大丈夫なのですか?」
「このままだと大丈夫じゃないだろうな……」
気づけば俺の隣に鍛冶神の間で戦ったヒス女ことセレナがいる。
一緒に連れて来ていたようだが、理由を聞いたりする時間も惜しかった。
俺に向かって飛んできた
「貴様がこの中ではリーダーのようだからな、協力してやる」
男の方、カスパーも口がぶっきらぼうではあったもの、協力を申し出てくれた。
「フレデリック様を救うことができるのであれば、なんでも致します……ですから……」
セレナが目を伏せて頭を下げるのを見て、俺はフレデリックを殺したりすることをやめる。
悲しむ奴がいるのであれば、生かしておくのがやさしさという奴だ。
それに、俺はまだ人殺しをしたくはない。
「セレナ、だったか? 幻影魔法が使えるようだから……みんなの姿を俺にしたり、増やしたりできるか?」
「それくらいでしたら、できますわ……見てなさい」
セレナが魔法を唱えたら、フレデリックの表情が変わった。
「ブンシンしたか、アニキィィィィ! 全てをハカイするゥゥゥゥ!」
イフリートと同化しているせいか、冷静な判断ができなくなっているフレデリックが広範囲魔法を人のいないところへ放つ。
作戦は成功、時間は稼げていた。
だけれど、フレデリックの様子からは早々に決着するべき様子が漂っている。
フレデリックが放った魔法の一つが、アリシアに飛んで行ったがバリアのようなもので打ち消された。
その際には胸のペンダントが光る。
「アリシア、そのペンダントは?」
「これは魔導具【水精霊の涙】と呼ばれるものよ。呪文不要で対炎への結界を貼ってくれるわ」
「金属で包まれているけど……」
「アダマンタイト製といわれているわ、このペンダントがどうしたの?」
俺はアリシアのペンダントに注目し、考える。
超高速で飛ばしてぶつければ、イフリートを倒せるはずだ。
高価なものだとわかりながらも、俺はアリシアに訪ねる。
「悪い、そのペンダント貸してくれるか? もしかしたら、返せないほどボロボロになるかもしれないが……」
「勝算があるなら、いいわ。私達の魔法攻撃じゃイフリートを攻撃しようにもフレデリックの魔力量で作られた結界を抜けないもの」
俺が俯きながらいうとアリシアは悩むことなく答えてくれた。
「5年前、あなたを守ってあげられなかったお詫び。もっと高くついたら、その時は一つだけお願い聞いてもらうことするわ」
「願い事は無茶なものだけはやめてくれよ」
俺は苦笑をしながら、アリシアが外したペンダントを受け取る。
金属の質感が鉄とは違い、もっとなめらかでありながら魔力的な何かを感じるものだった。
「みんな! イフリートやフレデリックの気を引いてくれ!」
「「了解!」」
元気のいい返事がしたのを確認した俺はペンダントを掌において、イフリートの心臓部に狙いを定めた。
よろける俺をレイナが支えてくれる。
「ウチが支えるから、遠慮なくやるんや!」
その言葉に俺はうなずき、意識を集中させる。
磁力をアダマンタイトのペンダントに集中させて、回転力も与えて力を加速させていった。
周囲に風が起きるのも気にせず、力を集めてまとめていく。
勝負は一撃、そこに俺の無限の魔力を込めていった。
その間にもエリカとアリシア、カスパー、セレナが魔法で攻撃をし続け、リサとセリーヌがイフリートへ近接攻撃を仕掛ける。
バリアではじかれるも、しつこく迫っていく姿に苛立ったフレデリックとイフリートは炎を竜巻を起こして全員を吹き飛ばした。
「ジュリアンは倒させやせん!」
集中している俺の目の前に炎の竜巻が迫るも、レイナが氷結ポーションを投げつけて、凍らせた。
イフリートの姿が目の前の氷の壁で見づらくなる。
別の魔法を唱え、脳の処理能力が増えて沸騰しそうなほどに熱くなるが狙いを定めるためには必要だった。
フレデリックの血液と、イフリートの心臓部に金属らしきものの反応を捉える。
「狙いはつけれた……いくぜ! これが最大必殺技! レールガンだ!」
俺の腕に仕掛けておいたコイルに電磁誘導で流した電流を発生させ、ペンダントを超加速して放った。
目の前の氷の壁を砕き、イフリートの心臓部へまっすぐ飛んでいく。
迎撃しようと炎魔法を放つも全て、ペンダントにあたる前に霧散した。
ドシュン!
イフリートが腕をクロスして、心臓部を守ろうとするが腕ごと心臓部をペンダントが貫く。
「「ギャオグオワァァァァ!!」」
フレデリックとイフリートが同時に叫び越えを上げて悶えていた。
イフリートの体が燃えていき、どんどん消えていく。
俺達全員はイフリートが消える最後まで、静かに眺めていた。