■焔の神殿 ダンジョン部 溶岩の祭壇
巨大な溶岩ゴーレムが俺達の前に立ちはだかっていた。
エリカのウンディーネも随分と長く連れていっているため、 疲労のようなものがうかがえる。
エリカ自身も、契約を魔力をウンディーネに与えているためレイナが持ってきている魔力ポーションを飲んでいた。
「ウチもここらで活躍せんとな! そうら、これでもくらいや!」
レイナが背負っているリュックから水色のポーションを取り出して溶岩ゴーレムに投げつけた。
溶岩ゴーレムにぶつかって割れた水色の液体がゴーレムを包み込んで、氷漬けにしていく。
「火竜を倒したいと思っているのはジュリアンだけやないで! 氷結ポーションや!」
「熱くなくなったのならば、やれるのだ!」
レイナが大声で、自分のポーションの完成度に拳を握って満足していると氷漬けになった溶岩ゴーレムの体をセリーヌが駆け上がった。
両手でグレートソードを持ちながらも、素早い動きを出せているのは既に
グレートソードを振りあげながら溶岩ゴーレムの肩を力強く踏み込んだセリーヌは、蹴り上げて大きく飛んだ。
上空から狙いを定め、溶岩ゴーレムの頭上からまっすぐにグレートソードを振り下ろす。
ズバァァァンと腕力の高めた一撃でもって、溶岩ゴーレムを一刀両断した。
着地していたセリーヌが立ち上がると、放漫な胸がぶるんと大きく揺れる。
ビキニアーマー姿でも溶岩ゴーレムの近くは近寄れないほど熱いようだ。
まぁ、当然といえば当然か……。
溶岩ゴーレムのコアなど、素材をレイナに回収してもらいながら、ダンジョンの奥へと進路を向けた。
「エンチャントって便利にゃね、あちしでも炎の人型くらいならすぐに倒せるにゃ」
先行していくリサが露払いをしてくれるお陰で、戦力を温存しながら進めていけるのは助かっている。
「もう少し進んだら、『鍛冶神の試練の間』と呼ばれる場所になるでー。おとーちゃんに連れられて昔いったことあるんや」
「試練の間とかついているということは、中ボスがいるんだな?」
「チュウボスってなんなのかわからんけど、炎の戦士とやりあって認められるのがイーヴェリヒトでの一流鍛冶師の試練となっとるよ」
走りながら伝えられるレイナの言葉に俺はそこで足止めしていてくれればと少し期待をしていた。
だが、鍛冶神と試練の間にたどり着いたとき、淡い期待は崩される。
「フレデリック!」
俺は炎の戦士を何かのアイテムで吸収しているフレデリックの姿を見かけて叫んだ。
■焔の神殿 ダンジョン部 鍛冶神の試練の間
先ほどまでの溶岩地帯が広がる中に石造りの円形闘技場に近いものが立っていた。
中央には聖火台のような炎が立ち上っているものがあり、聖火台のようなものの周りにはフレデリックと知らない男女が一人ずついた。
「クソ兄貴……やっぱり来ていたんだな」
「そのアイテムはなんだ! お前は何をしようとしている!」
「兄貴に言う必要はない。オレの邪魔をしないでくれ!」
フレデリックに問いかけるも、俺の言葉は否定されてフレデリックはさらなる奥へと向かおうとする。
「兄弟喧嘩に口をはさむのもにゃーとは思うけど、ジュリ坊のことを気にしすぎてるにゃね。フレ坊は」
「フレ坊!? フレデリック様、あの無礼な女を許してはおけませんわ!」
リサの言葉にフレデリックのそばにいた女がヒステリックな声を上げた。
服装からすれば貴族の子女だろう。フレデリックに付き従っているというか心酔か崇拝に近い何かを感じる。
「炎の戦士がいればオレも一人でこの先は大丈夫だ。お前たちはここで足止めをしろ」
「かしこまりましたわ。すぐに片づけて追いかけます」
「僕も同じです。下賤な平民冒険者など、すぐに片づけます」
フレデリックが指示をだすとヒス女と無礼男が俺達の進路をふさいだ。
なんというか、完全にアニメやラノベの悪の親玉みたいな動きをしているぞ、フレデリック!
「俺達は人に手を上げることはしたくないんだ。おとなしくしてくれ」
ため息をついた俺は口ではそういいながらも剣と盾を構える。
悪の幹部みたいなやつらは口でいってもどうしようもないんだ。
「ウチは人相手の方がやりやすいにゃ」
「気が合うのだ、私もだぞ!」
俺の両隣にリサとセリーヌが立つ。
二人とも胸囲装甲の厚さではパーティの1位と2位だ。
無礼男の方が鼻のしたを少し伸ばしたところを、ヒス女が小突く。
ヒス女の方は己が洗濯板なのをわかっているのか、怒りを止めるようなことはしていなかった。
「男はフレデリック様以外は下衆なのよ! わたくしの魔法でまとめて蹴散らしてさしあげますわ。わたくしの高貴な名を覚えておきなさい。 セレナ・ド・ヴェルサイユの名を!」
貴族らしく名乗りを上げたヒス女あらためセレナは薔薇の花びらを宙に舞わせる。
周囲に散った花びらが消え去ると、セレナと無礼男、そしてフレデリックの姿が消えた。
「どこに行っ……くっ!」
俺が二人の姿を探そうとすると、風の刃が俺の体を斬り裂いていく。
ふざけた二人ではあるものの実力者ではあることを俺は感じた。