■魔法都市ルミナエア ローレライ邸 魔導具保管庫
私が重い扉を開けると、静かな部屋の中に様々な魔導具が並んでいる。
その価値は様々で、高価なものからネタとしか思えない効果がないため低価格なものまであった。
ローレライ家はそれらを収集、管理、研究をして新しい魔導具開発を行うことで公爵の地位を得ている。
私は10歳の誕生日から、ここの管理をお父様から任されていた。
「定期管理くらいなら慣れたものよね」
一か月に1度倉庫内に異常がないかを見回るだけの簡単な仕事。
それでも大切なことを任されたことがとっても嬉しかった。
指輪の並ぶ棚の中で、一つだけ空いたところを見て、私の顔は曇る。
その指輪はアイゼン家に渡されたもので、今日、壊れてしまったとアイゼン家の当主と共に謝罪があった。
あの時のフレデリックは反省しているというよりも、
「お陰で婚約破棄にはなったけれど……でも、ジュリアンともう一度とはならないんだろうな……」
コツンと棚に頭を当てて私はため息をついた。
フレデリックより前に婚約者となっていた彼のことを今でも考えてしまう。
でも、ジュリアンは貴族ではなくなってしまっていた。
ただ、イーヴェリヒトで冒険者として有名になっている話がここまで届いてきてい
る。
立派になった彼に今の私は釣り合うのだろうか……公爵家という家柄をとってしまった私は才能があると言われていても自信がなかった。
――コツコツコツ
私のものとは違う足音が聞こえてくる。
「誰!?」
足音の方を振り向くが、そこには誰もいなかった。
いや、
魔力の波が変わっているので、誰かが倉庫に入っているのは確実だ。
私は魔導具を守るために防壁を張る。
地面から湧き出た土が繭のように棚を包み込んで、守った。
侵入者を感じた私は、続けて使い魔も召喚する。
「誰! 今なら、何もしていないので不法侵入だけで許すわ」
姿の見えない侵入者に向けて私は声を放った。
返事は来ない。
代わりに、薔薇の香りが部屋中に広がってくるのを感じる。
「しまった! これは……」
私の意識が薄れてゆく。
香りを使った魅了魔法を風魔法で遠くから部屋へ流し込む合わせ技だ。
こんなことができるのはあいつの仲間だけ……。
「じゅり……あん……たすけ……て」
信じることのできる、ただ一人の名前を告げて、私は意識を失い、ガクリとその場に倒れた。
◇ ◇ ◇
「謝罪のタイミングをこの時に合わせて正解だったな……クックックッ」
「フレデリック様、お探しのものを見つけてください。見つかったら御父上のお叱りだけではすみませんよ」
「もとよりオレに退路はない。大きな成果を得るためにはより強い魔導具が必要なんだ」
オレに従うカスパーが倉庫の外を警戒しながら、追い立ててくる。
「フレデリック様にこんな女はあいませんわ。わたくしの魅了魔法で下僕に調教してさしあげますわよ?」
丁寧な口調ながらもアリシアを見下しているセレナがオレに微笑んできた。
この二人は魔法学園で長く付き合っている貴族のもので、オレがいろいろなことをやってきたにもかかわらずついて来てくれた奴らである。
もっとも、オレ自身がこいつらに対して、虚言を伝えていいように伝えているだけなのだが……。
(使えるバカを手元に置いていたが、役立ってくれるな)
心の中のどす黒い感情を表に出さないように笑う。
しかし、カスパーのいうように早く済まさなければいけない。
父上を待たせている合間に魔導具を持っていかねばいけなかった。
目録は以前、アリシアに見せてもらっていたのでわかっている。
「【炎魔神の心臓】を手に入れるぞ。アリシアが魅了状態で操れるのならば、場所を聞き出して封印を解く」
「かしこまりましたわ。さぁ、炎魔神の心臓の場所を教えなさいな」
俺の言葉に従ってセレナがアリシアを壁にもたれかかせて魅了魔法で操る。
「地下……室、最……奥」
うつろな瞳で虚空を見つめるアリシアが場所をつぶやいた。
指刺す方向には床に扉があり、魔法陣での封印がされている。
「開けてもらおうか」
オレはアリシアを抱きかかえて連れていき、床の封印を解かせた。
魅了魔法が解けかかっているのか、アリシアの動きがだんだん鈍くなる。
時間の猶予はなさそうだ。
地下に伸びる階段を下りていくと、暗い部屋の中にたどり着く。
指に火をともして明りを付けると、封印された魔導具の数々が姿を見せた。
入るだけで、震えるほどの魔力の強さを感じる。
封印されているのに、これだけの魔力の波動を感じるのだから、解放されたときはどうなるのか楽しみだ。
「これが……【炎魔神の心臓】か」
神々しいほどの赤い光を放つ大きな鉱石の塊のようなものを目の前に、オレの口元が弧を描く。
これを手にして、焔の神殿のイフリートを解放すればオレこそが最強になれるのだ。