俺の目の前で、セリーヌが自らの体に刻まれた入れ墨の力を解放していく。
解放された動物たちの力がセリーヌを包み込んだかと思うと、彼女は全力で駆け出してグレートソードを振るう。
ガギィンと硬質な音が響き、火竜の体が少し揺らいだ。
『我を揺らがせるとは、面白いぞ人間!』
ファーストアタックで気を良くしたのか、火竜はこちらに集中する。
その間に他パーティの撤退と、立て直しの準備ができる……と思っていた。
『フンッ』
火竜の前足の爪がセリーヌに迫る。
爪一本一本がセリーヌの体ほどのサイズだ。
俺ならばビビッて動けなくなることは確実である。
その爪がセリーヌの体を
鮮血が吹き出し、セリーヌと地面を真っ赤に染めた。
両断したり、つぶれなかったのは
――ヤバイ!
――ヤバイヤバイヤバイ!
目の前で知り合いが血まみれになって倒れたことで、俺の思考は停止する。
立ちすくんでいる俺をよそに、エリカの精霊、ウンディーネが回復魔法を使いセリーヌの傷を塞ぐ。
その間の時間を稼ぐためにレイナがクレイゴーレムをドラゴンにぶつけ、リサが倒れているセリーヌを回収していた。
「ジュリ坊! しっかりするにゃ!」
セリーヌを背負っていたリサが俺に近づき、平手を一発当ててくる。
呆然とした顔をその時の俺はしていただろう。
リサの顔が普段のひょうひょうとした笑顔ではなく、鋭い目になっていた。
「リーダーはジュリ坊! 動けないリーダーなら、帰るにゃ」
もう一発平手が飛んでこようとしたが、俺がその手を握る。
そうだ、このまま木偶の坊になるなら、帰った方がいい。
人が酷く傷つく場面が久しぶりすぎて、俺の心が揺らいでいた。
かっこつけたのだから、ぼうっとしている場合じゃない。
「悪い……んで、ありがとな」
俺はリサの手を離そうとしたとき、火竜がブレスを吐いてきた。
リサの手をつかんだまま、俺はブーツを磁力で動かしてその場から離れようとしたが距離がギリギリである。
俺達が立ち去った後の地面が黒焦げになり、一部が溶けかけていた。
俺はあまりの熱さに立ち止まることができずに地面に転がる。
思い出したが、高温の火炎により電磁的な干渉を起こすことがあるとのことだった。
チッと舌打ちをして、冷静さを取り戻そうと深呼吸をする。
磁力魔法の欠点を思い出すなら、火竜と戦う前にしてほしかった。
『ちょこまかと……だが、逃げてばかりではつまらんぞ』
「俺も……そうしたいよっ」
悪態をつきながら、俺はブレスを吐く火竜を翻弄するように立ち回る。
しかし、地底湖の空間の温度が上がっていくほどに磁力魔法の効果が悪くなってきた。
露出している肌の部分が若干やけどしている気配があるが、敵の注意を引くこと以外、俺にできることはない。
合間を縫って、エリカがウンディーネを使い火竜へ水の魔法をぶつけていった。
大きな効果はないようだが、いらだ立てることには成功しているだろう。
「水……そうだ、エリカ! 精霊契約できるならルサールカを仲間にできたりできないか?」
俺は思いつたことをエリカに大声で伝えた。
地底湖の水を自由に扱っていた、ルサールカであればいろいろできるのではとの提案だったが、すぐに否定される。
「ウンディーネのほうが上位精霊ですわよ。だから、同じことはウンディーネでもできますわ」
しかし、俺の意図を組んでくれたエリカはウンディーネに指示をだした。
地底湖の水を吸い上げて火竜を包み込む。
「やったかにゃ!」
「リサ、それだけはいっちゃいけない」
思わず俺は突っ込みを入れてしまった。