■ダンジョン入口 冒険者ギルド出張所
「これなら、俺達でもなんとかなるぞ!」
「疲労の高い冒険者はテントでゆっくり休んでください」
冒険者ギルドの出張所にダンジョン内からもたらされた情報や、この場の状況が口頭で伝えられてきます。
数少ない羊皮紙には要点をまとめて整理したものを記録して、報告書が作成されていました。
戦場というのはわからないが、これが戦場に近い状況なのだろうと私――エミリア・ハルトマン――は思う。
「ジュリアンさん……まだ戻ってきてないですね」
数か月前までは駆け出しだった、ジュリアンさんはCランク冒険者として注目を集めだす中堅冒険者になっていました。
剣闘都市グラディアでチャンピオンを倒したという話にも驚き、そのチャンピオンと共にダンジョンに潜っていく背中は10歳という年齢を感じさせないほど頼もしさがあります。
「”鋼の守護者”が戻ってきたぞ! ほかのパーティもだ!」
冒険者の声が聞こえ、私はそちらへ駆け出しました。
「アーヴィンさん、ジュリアンさんは……エターナルホープは大丈夫ですか?」
「ああ、そのことなんだが……」
「急いで、Aランク冒険者パーティの増援が必要よ。火竜が出てきて、エターナルホープはその対応を引き受けているわ」
言いづらそうに口ごもるアーヴィンさんを横目にリリアンさんが手短に要件を伝えてきました。
火竜がでてきた? そんなものがいるというのは噂程度ではありましたが、確認はできていない情報です。
それが事実だった……。
私の顔から血の気が引いていくのを感じました。
急いで動かなければ、ダンジョンにも大きな影響がでてしまう。
「ギルドマスターへ連絡を……」
「おう、話は聞いてたぜ。今すぐ動けるAランクパーティは俺ら……だなぁ」
そこにいたのはギルドマスターであるドワーフの伝説の冒険者パトリオット・ストーンブレイカーその人でした。
パトリオットさんの後ろには老齢に差し掛かった男女の姿がみえます。
「急に茶を飲み来いといって呼び出したのは……これを予想してですか?」
眼鏡をかけた優しい雰囲気の聖職者は確か、このイーヴェリヒトにあるルミナ教の教会の司祭アーサー・ウィンターズさんでした。
「ババァをこんなことに使うんじゃないよ。まったく……」
女性のほうは男子禁制酒場『薔薇の隠れ家』のオーナーの女性だったが、まさかエリオットさんの知り合いということは伝説の大魔法使いミリアム・ブラックウッドさんです。
伝説の冒険者パーティが目の前にいることに普段の私であれば、感動をしていたでしょうが今はそんなことをしている状況ではありません。
「ギルドマスター、アーサーさん、ミリアムさん……火竜の対応をお願いいたします」
私は頭を下げて、3人に救助へ向かってもらうように頼みました。
「火竜なんて、黒龍王に比べれば子供みたいなもんさ」
ぷふぅーとタバコの煙を吹かせてミリアムさんが大きな両手杖を空中から取り出します。
収納魔法というものだったはずですが、はじめて目にしました。
「帰ったら、おいしいお酒をお願いしますよ。エリオット」
「もちろんだ。若人を助けにいくかの」
ギルドマスターが先行し、それにミリアムさん、アーサーさんが続きます。
ギルド職員としての私はその背中を見ることしかできない。
いつもそうなのに、今日、この日だけはそんな自分がとても悲しかった……。