キンキンキンと舞台の上で、拳と剣がぶつかりあう音が響く。
セリーヌが素手なのに金属音が響くのは一重に
「俺の磁力魔法もたいがいだが、強化降霊もたいがい……だなっ!」
セリーヌの攻撃を左腕の盾を
だが、同じく
いや、10分一本勝負ということなので、時間ギリギリまで動けばスタミナの量で俺のほうが不利である。
「どうしたのだ? 余裕がないようなのだ」
ニマニマと笑いながら攻めてくるセリーヌに俺はいらだちを得た。
舐めプされている。
ルーカスがいっていた増長しているというのはこういうとこなのだろう。
強いが故にライバルがおらず、弱い相手を侮り、嘲り戦う姿は実力的にチャンピオンでも続けば人気が低迷していくのは予想ができた。
「相手に敬意を払わないのは……嫌われるぜ!」
「けーい? 何それ、おいしいものなのか?」
腕っぷしの強さが全てを決めるアマゾネスという種族で、身体強化できるシャーマンの素養のあるセリーヌに人間らしい感覚はないようである。
だが、相手のことばかり考えているわけにはいかなかった。
体のいたるところが悲鳴を上げ始めていて、疲労による集中力の低下は磁力魔法の精密なコントロールにも影響がでる。
『残り3分です。挑戦者、意外ともちますねぇ』
『いや、これはチャンピオンがいつも通り遊んでいるからでしょう』
制限時間の話を解説者と実況者が話していた。
3分で勝負をつけるなんて、光の巨人かよ……。
だけど、やらなくちゃならなかった。
俺のためにも、そして戦っているセリーヌのためにも……。
「何かあるようなのだ。いい目なのだ」
「見透かされるのはやりづらいよ……モンスター相手のほうがかなり楽だ」
俺の気持ちを汲み取ったのか、セリーヌは俺との間合いを開けて仕掛けてくるのを待っていた。
セリーヌに向かって俺は駆け出す。
「何か仕掛けると思ったがつまらないのだ」
「そうでも……ないぜ!」
やれやれとあきれているセリーヌに俺は剣を振るいながら、セリーヌの背後からセリーヌが地面に突き刺していたグレートソードをぶつけようと磁力で引っ張った。
俺の剣とグレートソードの間に磁力の帯でのつながりを感じる。
「面白いのだ!」
セリーヌは俺の剣を正面から受け止め、背後から迫っているグレートソードを蹴り上げて挟みうちを防いだ。
だが、これらも俺の最終手段の前座に過ぎない。
「ああ、やばい……意識が途切れそう」
複数の状況を魔法で操作するのは集中力がいる。
魔力の消耗も激しいので、一瞬のスキを全力で狙わなければならなかった。
「理論はできていたけど、ぶっつけ本番。血液を磁力で操る!」
俺は
「うぐっ!」
ようやくまともに入った一蹴に俺は精一杯の笑みを浮かべた。
「終わり、だ!」
放った蹴りの威力を高めるために、
残った魔力を斥力発生に使って、蹴りの入った1点から注がれた力でセリーヌの体が場外に吹き飛んで転がる。
斥力で血液を動かしたこともあり、貧血のような状態になってセリーヌは起き上がることもできなかった。
「試合終了! 場外のため、勝者はジュリアン!」
試合開始前と違い、ワァァァアと歓声が俺を包む。
片手をあげてそれに答えたところで、俺の意識が消えた。
■闘技場・選手控え室
俺が目覚めると、目の前には大きな二つの山が見えた。
その先には猫耳が生えたリサの顔がある。
「ジュリ坊、おはようにゃ」
「おは……よう……」
起き上がろうとした俺をリサが止めて、寝かせてきた。
やわらかい太ももの感覚が後頭部に蘇る。
「ジュリアンさんは勝者宣言の後に気絶されましたわ。大勝負に限っていつも最後は気絶されますのね」
控室の一角で水を用意していたエリカが俺のほうに近づいてきた。
確かに苦戦した際は気絶している。
しかたないじゃないか、魔力が無限大にあっても消費量が多ければ体に不調がでるものなのだから……。
特に今回は血液もコントロールしたので、その影響もあるだろう。
(血が赤いのは鉄が含まれているということで、磁力魔法でやれるかと思って試してみたが、めちゃくちゃ反動がでかい……多用はできないな)
血液ほどの小さな金属反応は普段は磁力の感知ができない。
集中してようやく対象にできるので、その集中力と消費魔力はここぞという時にしか使えるものじゃなかった。
コントロールも自分で何度も試さないと怖いレベルである。
「失礼するのだー!」
控室の扉があき、元気な声と共にセリーヌが入ってきた。
「なんのようですの? ジュリアンくんは安静にしなきゃいけない状況ですのよ?」
セリーヌに対して、エリカがジト目で釘をさす。
「ルーカスから、今回の報酬についての報告を任されたのだ。よろこべ、お前の報酬は私なのだ!」
「は?」
何を言っているのかわからない。
目の前の脳筋爆乳は細かい説明ができないやつだ。
俺はセリーヌの後ろにいるマネージャー風の男に視線を向ける。
「私の方でご説明させていただきます。かねてよりセリーヌ嬢は『私より強い奴と出会う』為にルーカス様と闘技場の選手として契約をしていました」
「なるほど、さすが脳筋」
「そんなに褒めても何もないのだぞ」
ケラケラと笑うセリーヌだったが、俺は褒めたつもりはない。
マネージャー風の男に説明の続きを促した。
「今回、セリーヌ嬢はエキシビジョンマッチとはいえ、気絶させられるほどの敗北をしたことで、ルーカス様との契約終了を宣言。ジュリアン様にはセリーヌ嬢と奴隷契約をしてもらうことを報酬代わりとして提案されたというわけです」
確かにセリーヌは強いし、爆乳だし仲間にするのは悪い話ではなかった。
だからと言って奴隷契約というのは話が違うのではないだろうか。
報酬を未定にしていたら、こんな目にあうとは……まさか、ルーカスにはめられたのか?
「奴隷契約云々については今は決めれない……しばらくお試しで預かるじゃだめか?」
「私はそれで大丈夫なのだ。お前のそばにいれれば何の問題もないのだ」
ぶるんと爆乳を揺らしてワハハと笑うセリーヌは何も考えていないようだ。
マネージャー風の男もそれで問題がないようで、頷いてくる。
この人からしばらくセリーヌの取り扱いについて聞いておきたかった。
「ジュリアン! まずいことが起きたわ!」
俺がいろいろ悩んでいると、再び扉が開きなぜか、リリアンが出てくる。
「リリアンさん!? まずいことって何が?」
「イーヴェリヒトでスタンピードが起きたわ! すぐに戻らないと町が大変なことになる!」
どうしてリリアンがここにいるのかなど聞きたいことはあったが、それらが吹き飛ぶほどの問題だった。