■街道沿いの野営地
5日の馬車移動の中、4日目の野営をする際には俺とグレンはだいぶ打ち解けていた。
グレンと一緒にいる男の護衛達は二人とも奴隷であり、赤黒い肌に頭部に黒い角が生えているオーガという種族らしい。
男性用を俺とグレン、女子用をエリカとリサがテントを張っている中、オーガの二人は周囲を警戒していた。
「あと1日でグラディアに到着か……」
「最後の野宿だから、だいぶ手慣れたもんだ」
パパっとテントを立てると、食事の用意をしはじめる。
今日は野宿も最後なので食料を使い込んでしまおうと俺は考えていた。
「具材たっぷりシチューで決まりだな」
「ジュリアンさんのシチューはとってもおいしいのですわよ。わたくしも大好きですわ」
「あちしもジュリアンの料理は好きにゃ~」
食材を確認していた俺がメニューを決めていると、エリカとリサが背後から俺の手元を覗いてくる。
覗いてくるだけで、二人は手伝わない……いや、俺が手伝わせない。
一度エリカに料理をさせてみたら、ゴミくずが出来上がったし、リサに物を切らせたら、大雑把にしかきれなかった。
顔は二人ともいいのに、メシマズ女子で残念である。
ミツキはメイドでもあるから、料理が上手いし俺の料理の先生もミツキだった。
「ん! 周りを囲まれ始めてるにゃね……影を通して動いているかもしれにゃいから、ダークウルフかもにゃ」
リサの表情が真剣なものになり、腰のナイフ入れからナイフを二本抜いて両手で構えた。
「ダークウルフとなれば、集団行動を行っていますわ。今日は満月ですから、狙ってきているのかもしれませんわ」
エリカは
「馬車の守りは俺とオーガの兄弟に任せてくれや。エターナルホープの実力も見てみたいしな」
グレンは戦う素振りを見せず、馬車のあたりに陣取った。
震える御者を巨体に隠して、傷つけないようにしている。
同じ馬車に乗っていたものもいるが、俺達とグレン達以外は非戦闘員のようなので、戦力にカウントできない。
(もっとも、今の俺は料理中だし金属武器を持っていない敵相手だと磁力魔法はあまり活用できないんだよな……)
場所が金属反応の多数ある鉱山や、古戦場などでは対象として指定できる存在は多いが、ここは森だ。
あとは鍋やフライパンなどの調理器具類だ。
使えなくはないが、敵の数が圧倒的に多いので、いざという時の保険だろう。
(ゴーレムを召喚できるレイナがいてくれたら数の不利は多少はなくなるんだろうけどなぁ……)
「エリカ、リサ……今回、俺は料理を守るだけが精いっぱいになりそうだから、頼んだ」
「遠慮せずに、お姉さんを頼るといいですわ」
「あちし達に任せるのにゃ」
俺が二人に頭を下げると、二人は嬉しそうに笑って、迫ってきたダークウルフたちを迎撃にでる。
数の有利を生かすために一斉にとびかかってきたダークウルフ達を最初に迎撃したのは眩い光だった。
ダメージを与える効果はないが、目くらましには十分である。
「キャゥン!?」
驚きのあまりに地面へと落下したダークウルフの喉元をリサが確実に二本のナイフで斬り裂いていった。
それだけでは追いつかないので、エリカが木の精霊にも指示をだす。
木の根を槍にする能力を発揮して、倒れ伏しているダークウルフを貫きだした。
数がどんどん減っているのを見て、俺は自分が驕っていたことを恥じる。
実はもっと苦戦するんじゃないかと思っていたのだ。
「兄者、思ったよりも楽だな」
「そうだな」
馬車のほうをみれば、オーガの兄弟が巨大な金棒でエリカとリサの攻撃をよけてきたダークウルフを屠っている。
一撃で軽々とはじいている二人はグレンの護衛だけあって強そうだ。
冒険者ランクでいえば俺らと同じか上かもしれない。
そうこうしているうちに数を大きく減らしたダークウルフ達の中で、一際大きなものが姿をみせた。
群れのリーダーだろうか、ゆっくりと近づき咆哮を上げる。
「ウォォォォォッ!」
耳をつんざくような声に、戦闘態勢をとっていた全員が委縮した。
攻撃意思のあるものに影響するスキルのようなものだろうか?
幸い俺には影響がなかったので、実験的な磁力魔法を試してみることにする。
ダークウルフリーダーの足元に起動型の魔法を仕掛けた。
委縮しているほかのメンバーを仕留めようとゆっくりとダークウルフリーダーが足を踏みだすと魔法が発動する。
グレンの胸にしこんでいたナイフ、エリカの背負っていた矢、リサのナイフ、俺が料理に使っていた包丁がダークウルフリーダーの周囲に発生した磁界に引き寄せられて、ものすごい勢いで飛んでいった。
ダークウルフリーダーは迫ってきた刃物たちの雨に身をひるがえしてよけようとしたが、ダークウルフリーダーを磁石にしているようなものなので、逃げることなど不可能である。
ザシュザシュザザザ
ダークウルフリーダーがハリネズミになり、息絶えた。
「ジュリアンさんに結局いいところを持ってかれてしまいましたわ」
エリカがぷぅと頬を膨らませている。
「ごめんて、お肉たくさんシチューに入れてやるから許してくれよ」
「大きいお肉にしてくださいな」
俺は不満を持つエリカに料理の肉でごまかすことにした。
チョロ可愛い奴である。