――オレは間違っていない
――オレは間違っていなかったんだ!
■数日前 イーヴェリヒトのとある宿屋
ジュリアンがイーヴェリヒトからグラディアへ旅立ったと聞いたオレは今のうちにダンジョン攻略を進めることをダンテ先輩やエリオット教授に進言した。
エリオット教授の部屋で相談するためにみんな集まっている。
「大体の内容はわかったから、溶岩地帯まで進むのは十分ありだと俺も思います」
ダンテ先輩はエリオット教授を見て、話にのっかった。
ジュリアンにいいところを奪われたことにダンテ先輩は引っ掛かりを感じているようである。
もっとも、オレも先輩よりも火魔法での実力は上なので、オレに対しても思うところはあるだろうが……。
「ダンジョンでの進み方も慣れてきましたし、深い階層にいくのはいいでしょう。保存食なども持って、ダンジョン内部で一泊をするつもりで準備していきましょう」
「エリオット教授! 二泊以上は私したくないです」
「私も避けたいですね。今回は一泊だけで、慣れたら次をどうするか考えていきましょう」
話を黙って聞いていた、唯一の女性であるセシリア先輩が手を上げて抗議の意思をしめしている。
ダンジョン内に風呂などはないので、長期間の滞在は汗臭くなるので嫌だということだった。
オレとしては目的はジュリアンの成績を超えることなので、奥深くまで行ければそれだけでいい。
あの
「あとはギルドでポーターを雇いましょう。テントなどの道具はポーターに持たして僕たちは両手の自由を確保するのが先決ですね。費用は僕が持ちますから、安心してください」
エリオット教授が話をまとめると、その場は解散した。
■イーヴェリヒト鉱山ダンジョン・結晶洞窟階層
オレが呪文を唱えると右手の中指にはまっているフレイム・ルビーの指輪が赤くまぶしい光を放つ。
火魔法では倒しづらいとされるクリスタルゴーレムが、オレの魔法に包まれ轟音を鳴らした。
(やはりつよい、オレはアニキとは違うんだ)
ジュリアンよりも先の階層へ通り、階層主であるクリスタルゴーレムの屠れる実力がある。
どちらがすごいかなど火を見るより明らかだった。
結晶洞窟階層の主を倒したので、しばらくはここも安全だろう。
「テントで一泊したら、下の溶岩階層へいきましょう。しっかり休むことも必要です」
エリオット教授にそういわれたら従うしかないので、オレはポーターが組み立ててくれたテントの中に入って目を閉じる。
その時オレは指輪に小さな亀裂が入っていることに気づかなかった。
■イーヴェリヒト鉱山ダンジョン・溶岩階層
ダンジョン内ということもあり、溶岩階層は熱気がこもって暑かった。
「溶岩地帯ですから足元に注意しながら進んでください」
ぐつぐつと燃え滾る溶岩の中をオレたちは進む。
ポーターの足取りが遅いが、計画を実行するには好都合だった。
オレの目的は火竜を従魔化することである。
火竜は知恵者であり、炎の力強さによって従うと聞いていた。
(オレの火魔法の強さであれば、火竜を屈服させるなど造作もないことだ)
「火魔法が中心の僕たちパーティは長居せずに抜け出すのが一番ですからね。階段のほうへ進みましょう」
だが、エリオット教授はこの階層の早期離脱を考えている。
それではいけない、ここでオレははぐれた振りをして、下層へ続く階段から火竜の巣穴に進路を向けて進んだ。
■火竜の巣穴
「すごい……これをオレが従えれば、学園での評価もアニキの評価も全てが塗り替えられる!」
巣穴でうつ伏せで寝ている火竜を前に、オレは興奮が止められない。
まずは起こすところからだ。
得意の灼熱魔法を火竜へと放つ。
火竜の体が炎に包まれるが悲鳴などは起きない。
この程度では傷つかないことは織り込みずみだった。
『貴様はなんだ……我に何を求める』
起きた火竜がオレを見ながら、威厳のある低い声で語りかけてくる。
「要求は一つ、オレの従魔になれ。契約の証として炎を見せつけよう」
オレは事前に調べた通りに火竜へ右手の指輪の力で強化された魔力の灯を見せつけた。
『ほほぅ、思った以上に強い魔力と炎を持っているようだ。だが、我より弱ければ話にならんぞ』
火竜は息を吸い込むと、炎のブレスを吐き出す。
指輪が光り、自動防御を行うための炎の障壁がオレを包んだ。
10歳の誕生日にローレライ家からもらった指輪の性能に驚くしかない。
(ローレライ家は利用していきたいな。アニキの元婚約者のアリシアも手に入れたい)
火竜のブレスを塞き止めていた指輪の障壁が指輪にはめられていた宝石がくだるとともに消えた。
『道具頼みとは片腹痛い……貴様に私を従える資格などないわ』
火竜のブレスが俺を包むかと思ったら、砕けたフレイム・ルビーの指輪から膨大な魔力があふれだして炎の濁流となって広がってく。
指輪の能力としてあったオレの魔力を蓄えておく力が一気に解放されたのだ。
オレは今では100万を超える魔力量を持っており、指輪は常に身に着けて魔力を影響がでないように吸わせ続けていたので、封じられた魔力の量は考えられない。
あふれだした魔力の濁流はブレスを飲み込み、巣穴を破壊して広がっていった。
『ふははは! 面白いぞ、これだけの魔力があふれたのであれば我がこの階層に縛られている結界さえも砕くであろう。外の世界へと出て蹂躙しようぞ』
火竜はそういって砕けた巣穴にできた大きな穴より翼を広げて飛び出した。
「これは、オレのせいじゃない……この指輪のせいなんだ……」
巣穴に取り残されたオレは静かにつぶやく。
その言葉をだれも聞いてはいなかった。