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第16話 なんだかんだで依頼達成?

■ノーブルク村の酒場


 デュラハンを倒したあと、神殿騎士たちが出現場所を念のために簡易浄化した後、報告と古戦場の完全浄化のための人員を呼ぶために教会本部へと旅立った。

 そのため、酒場にいるのは魔法学院の生徒達と依頼主であるエリオット……そして、俺ら『エターナルホープ』である。


「ええっと、依頼主としては今回の展開はどう見ているん……でしょうか?」


 俺は努めて丁寧にエリオットへ訪ねた。

 別に尊敬などがあるわけではなく、いち早く依頼の成果を決めてもらいイーヴェリヒトへ帰りたいだけである。


「実技試験としての側面は戦闘も十分ありましたから、大丈夫です。最後のデュラハンのトドメはそちらですが、獄炎魔法をつかえたことは評価にあたいします」


 エリオットはいつの間に書いていたのか、本を取り出してメモを確認しながら答えてくれた。

 聞いている限り、依頼主としては問題ないようである。

 そう、依頼主としては……。


「納得いかねぇな……」

「オレも納得いかない」


 ムスッと不機嫌を顔に合わらしている二人が一緒にいるテーブルの雰囲気を悪くしていた。

 片方は上級生にもかかわらず、シャドウナイトにボコボコにされたダンテで、もう片方は俺の双子の弟でもあるフレデリックである。

 いいところがなかった(いや、フレデリックはあったと思うのだが)二人には俺が目立ったことが気に食わないようだ。

 貴族らしい貴族の態度ともいえよう。

 俺は前世がただのアニオタ高校生なので、体裁とか、面子とかは気にしなかった。


「そうですね……ちょっと学園に確認をとる必要がありますが、イーヴェリヒトまで足を延ばしてダンジョンに潜る実技評価を行うのはどうでしょうか?」


 エリオットが不満げな二人に対して提案した。

 確かに、イーヴェリヒトの鉱山跡地でのダンジョンアタックであれば、魔法使いだけでもモンスターを蹴散らして評価を得ることは可能である。


「俺らエターナルホープは地底湖までしか進められてないので、その先にいければ冒険者ランクでいえばC以上の実力になるでしょうね」


 さらにいいところをとられたと思っているだろう二人にたいして、俺は進行中の階層について伝えた。

 これで、フレデリック達がダンジョンへもぐって活躍してくれれば変に突っかかれないだろう。


「そういうことなのですが、いかがですか?」


 二人は頷きで答え、炎の壁を張っていた、女魔法使いも渋々といった様子で頭を下げた。


「では、学院に連絡をとりますので、しばらくはこの村に待機ですね。皆さんもゆっくりやすんで、周辺のモンスター討伐などもしてみるのもいいかもしれません」


 エリオットがそういって、話し合いは解散となった。

 打ち上げをどうしようかと、パーティメンバーと話そうとしたとき、エリオットが俺に声をかけてくる。


「ジュリアンさんとは二人きりで少し話したいことがあります。この後いいですか?」

「わかった……じゃあ、先に始めてて」


 俺とエリオットは事前打ち合わせにも使った個室へ入っていった。



 向かい合って、椅子に腰かけるとエリオットはいつもの優しい笑みを抑え、真剣なまなざしで俺を見てくる。


「ジュリアンさんですが……もしかして、転生者ですか?」


 いきなりな質問に俺は言葉を失い、心臓がドクンと大きくなった。

 なんでそんなことを聞いてくるのかわからない。


「ああ、大丈夫ですよ。他言はしませんし、あくまでも僕の研究者としての興味です」


 俺が黙っているのを見たエリオットが慌てだした。

 その表情や言動には嘘はなさそうである。


「話すのはエリオットが初めてだけど……俺は異世界からこちらに転生してきた。だから『磁力』という現象の存在について知っているんだ」

「なるほど、ジリョク魔法を使いこなせているのはそういう理由からですか……もしくは磁力魔法が授けられたが転生者だからかもしれませんね」


 俺の言葉をすんなりと受け止めて、エリオットは納得したように頷いた。

 もっと疑ったりとかするかと思ったが拍子抜けである。


「エリオットは他の転生者とかについても知っているのか?」

「僕が知っているのは記録に残っているものだね。直接あったのは君が初めてだよ」


 『エルフで研究者だからね』とエリオットは話を続けた。


「ジリョクって概念は初めて聞いたし、今日も初めてみたけど……冒険者向けの魔法だね。付与魔術に近い扱い方になりそうだと感じたよ」

「金属……主に鉄なんですが、それらを移動させたり反発させたりするのが磁力の概念の一部です。本当はもっと複雑なんですが、今はこの辺で……」


 いつしか、俺はエリオットに対して敬語で話はじめている。

 尊敬できる人間には敬語で話したくなるのだ。


「そうなんだね……金属を引っ張ったり動かしたりできる魔法……か」


 エリオットはメモを取りながら、考えこんでいる。


「俺もまだ、この魔法の全容を使いこなしたりできているわけじゃないので……魔法学院の教授としての知見をえたいです」

「おそらくしばらくイーヴェリヒトにいることになりますから、その時はよろしくお願いいたします」


 エリオットに頭を下げてから、俺は部屋をあとにした。

 転生のことについて話せたのは心の負担が減る。


(フレデリックのことで嫌な気分だったが、楽になったな……打ち上げ楽しもう)


 部屋をあとにして、俺はパーティメンバーの集まるテーブルへ向かうのだった。





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