■アーカナム古戦場・西側
古戦場という名の通り、荒れ地となった平原に鎧や兜、剣や槍などがあたりに散らばっていた。
腐った死体はなく、白骨死体ばかりである。
「こうなると出てくるのはゴーストやスケルトンだよな」
俺は盾を構えて戦闘に立ち、周囲を警戒していた。
いつもなら斥候などで活躍するリサが、不気味な古戦場の雰囲気に気おされて、俺の後ろにいる。
体格差からいけば、俺の方が小さいのでリサは隠れれないのだが……あと、ちょうど豊満な胸が頭上に来るので動きづらいことこの上なかった。
「リサ、動きづらいから離れてくれると助かるんだけど……」
「あ、あちしは! 不安なジュリ坊をフォローする役目にゃ!」
どっちがどっちをフォローしているのか全く持ってわからない。
こんなところで戦力外が一人増えるなんて予想外だ。
「おばけはナイフで斬れないから、いやなのにゃ!」
ガタガタと小刻みに震えているリサを守るように俺は盾を前に突き出した構えをとり、目を閉じて集中する。
新しく編み出した磁力魔法を使うときだ。
俺の周囲に磁界を発生させ、金属反応を感じ取る。
魔力を使う練習を、イーヴェリヒトに帰ってきていたリリアンにお願いして学んだことで使えるようになった魔法だ。
大半の金属反応は動きの無いものだが、一部動いているものがある。
効果範囲は半径500mくらいで今は使っていた。
もっと広範囲も俺の無限大の魔力量であれば可能だが、消耗ペースが激しいので、体に不調を起こすので避けている。
リリアンがいうには魔法を使いならしていけば、体が慣れてくるとのことだった。
(そのためにもいろんな魔法を使っていくしかない)
俺が使えるのは磁力魔法だが、磁力にかかわることは何でもできる。
応用の幅が広い魔法なので、実践と訓練を繰り返していくだけだ。
「北西の方から動いている存在を感知。おそらくスケルトンだろうな」
「わかりましたわ、サラマンダーの火球で焼いてしまいましょう」
エリカがサラマンダーを召喚して、待機させる。
迎撃準備が整ったらゆっくりと北西へ移動していくと、骨がカラカラとなる音が聞こえてきた。
ボロボロになった鎧兜に鉄の剣を装備しているスケルトンの集団が姿を現す。
「ジュリアン、聖水はどないする?」
「ゴーストが出てからのほうが重要だから、今はいらない。それよりも燃えるポーションは作れたか? そっちの方が期待したい」
「ああ、できたでー。どないしたら、あんなん思いつくんや?」
「そこは企業秘密だ」
レイナが援護に入ってきたので、頼んでいた人工石油を錬成してもらう。
水と二酸化炭素に可燃物の油を混ぜる人工石油という存在を知っていたので、この世界で応用して作ってもらったのだ。
さっそく作りだされた人工石油の入った缶をスケルトンの集団の真ん中へ磁力魔法で撃ち込む。
ブオンと空気を切る音と共に缶がスケルトンに迫った。
スケルトンは手に持った剣で缶を空中で両断すると、人工石油がスケルトン達にかかる。
〈火の精霊:火炎弾〉
続いて、レイナがサラマンダーに火炎弾を吐かせてスケルトンを業火に包んだ。
スケルトン達との距離はあるものの、風が熱を運んできて熱さを感じる。
「燃えるポーションは成功だな」
人工石油が錬金術で生み出せたのはうれしい誤算だ。
前世の科学知識を概念をうまく伝えれば錬金術で再現できるとわかれば、いろいろと行動の幅が広がるものである。
「スケルトンが動かなくなったにゃ」
業火と石油で焼かれたスケルトンが灰になったのを確認すると、次のエリアの索敵を行うべきく動き出した。
◇
「嫌な予感がしますわ。ゴーストなどが来ているのかも」
しばらくすると、エリカが手を挙げて進軍を止める。
精霊と繋がっているエリカはエリカなりの勘のようなもので、危機を伝えてきていた。
「闇の精霊のノクトが周辺の影が怪しいといってますわ」
エリカの背後に黒い体に赤い瞳が浮かんだものが姿を見せる。
ノクトが姿を現したとき、古戦場の地面に広がった影から、剣を持った騎士のような影が浮かび上がったかと思えば、すぐに剣を振って攻撃を仕掛けてきた。
「シャドウナイトですわね。このようなモンスターまでいるとは聞いておりませんでしたわ。魔法攻撃が効かないので物理攻撃ですが、アンデット系と同じく銀武器や聖別でないと大きな効果は望めません」
急襲してきたシャドウナイトの攻撃をエリカがノクトでバリアを貼って防ぐ。
パリンと砕けたが、こちらが攻撃をするチャンスが生まれた。
「だったら、レイナ! 聖水をこっちに投げてくれ」
「はいな!」
レイナから聖水の小瓶を投げ渡された俺は盾をぶつけて聖水を割る。
聖水の力が盾に付与されて、淡く光った。
「そのまま吹き飛べっ! シールドバッシュ!」
光る盾を磁力魔法で加速させて、体当たりをかました。
シャドウナイトが構えた影の剣をへし折り、弾丸のようにシャドウナイトを貫いて、シャドウナイトの背後へと転がる。
「いてて、これは技としてはいけるけど着地が難しいな……」
盾での体当たりを加減速でうまくコントロールするにはまだ時間がかかりそうだ。
「こっちは順調に進んでいるが、フレデリック達のほうはどうなんだろうな……」
敵を排除しながら調査を進めている俺の心配が当たったのか、フレデリック達の作戦エリアである方向から巨大な炎を柱が上がるのが見える。
「すさまじい魔法ですわね。あれだけの攻撃を仕掛けているというのはそれだけ何かあったのでしょうか?」
「どないするん、ジュリアン」
「もちろん……様子をみにいくさ」
エリカとレイナに声をかけられた俺は、作戦行動とは違う動きを提案した。
あまり会いたくない弟ではあるが、弟なんだから寝心地の悪いことは避けたい。
それが本心だった。