■ノーブルク村の酒場
依頼を受けて1週間後、ノーブルク村の宿屋兼酒場には俺たち『エターナルホープ』が一番乗りで到着していた。
1週間の準備期間は各自の自由行動にしていたので、俺はパーティメンバーの状況確認をする。
「この1週間どうしていた?」
「ウチはねぇ、聖水を買って、錬金術で作れないか試しとったわ。あとは長期で工房あけるから、納期の前倒ししたりしてたなぁ」
「アンデット系が多いから、聖水は必須だよな。俺たちのメンバーには神聖魔法を使うのはいないから火属性になるし、そうなるとエリカの負担が大きいしな」
俺はレイナの用意してくれたアイテムを受け取り、感謝する。
磁力魔法も基本物体を動かすだけなので、そのアイテムが聖別されてなければアンデットやデーモン、ゴーストなどには効果が薄いのだ。
「それで錬金術で生成できるようになったのか?」
「ばっちりや! 教会で売られているものよりかは効果は劣るけどもすぐに生成できるから、いざというときはまかしとき」
ぐっと親指を立ててレイナは笑顔をみせる。
職人として実に頼もしいし、錬金術師をパーティに入れたのは間違いじゃなかったと改めて思った。
「わたくしの方は古戦場の情報収集ですわね。詳しいアンデットの種類などをギルドでの聞き込みなどをして調べてましたわ。大まかには兵士にゾンビ。次点でゴーストですわね。気になる情報としましてはデュラハンを見たという話がありましたわ」
「デュラハンか……ランク的にはBランク級のモンスターだよな。出ないでほしいが、出てきたときのことを考えておくべきだろうなぁ……」
俺はエリカの情報にうなった。
金属鎧に大剣を持っているモンスターだけに俺の磁力魔法との相性は悪くないが、初のダンジョンアタックで油断して死にかけた経験が警戒を解かせない。
配下でゴースト系を召喚するので、そのあたりの対処が俺単体では難しいのもネックだった。
神聖騎士団や魔法使いたちと連携して対処にあたるべきだろう。
(神聖騎士団の方はともかく、魔法使いのほうがうまく行けるかな……)
心配の種はあるが、そこは状況次第だ。
「あちしはいつも通り昼寝して、ご飯食べて、妹たちと遊んでたにゃ」
「リサはリサだよなぁ……」
依頼があればやるが、真剣に挑むという方向ではないのがリサだ。
戦闘やダンジョンアタックであれば頼れるところも多いが、その分普段は何か言わない限りゴロゴロするのが彼女である。
特に盗みをしなくても結構な報酬が入りだしているので、仕方ないともいえなくはないの、か?
「そこにいるのは誰かと思ったら……『落ちこぼれ』じゃないか」
俺がリサのことを考えていたら、不意に後ろから声がかかった。
忘れることのできない声、振り向けばそこには5年以上前に別れた双子の弟がいる。
「
俺は努めて冷静に貼り付けた笑顔で、フレデリックに握手を求めが、別の男の手が伸びて俺と握手を交わす。
俺よりも背が高く、体格もいいし顔も悪くない。
モテそうな奴だ。
「魔法学院の側のリーダーは俺だ。”インフェルノ”ダンテ・テオバルトという。エターナルホープは最近イーヴェリヒトでは注目株と聞いているので期待しているぞ」
上から目線なのは貴族だからだろう。
それでも誰かと違って嫌味がないからましだった。
二つ名もちということもあり、実力者なのは言うまでもない。
フレデリックはチッと舌うちをしながら俺を睨んでいた。
「神殿騎士の方々も到着したようなので、今回の依頼の説明をさせていただきましょう。僕はエーテリオン魔法学院教授のエリオットだよ。今回の依頼主といったところだね」
俺が魔法学院の面々と応対している間に残りの神殿騎士も来たので、代表者だけが酒場の個室へ移動して打ち合わせを始める。
◇
「今回、このような依頼となった理由は二つです。一つは魔法学院の実技試験を行うこと。もう一つは古戦場のアンデットが異常活性化しているとの報告がこの村に届いたので、調査をすることがあります。」
エリオットの説明に俺はなるほどと頷いた。
表向きのメインは魔法学院の実技試験だが、実際はアンデットの異常活性化についての調査と対処が本当の目的だろう。
貴族の自尊心を傷つけずに、俺たち冒険者や神殿騎士が補佐という名目なのだ。
「この古戦場は確かにアンデットが定期的にあふれるが、対処しきれない数ではないはずだが……それが変わったということだな? 外的要因は何もないと?」
神殿騎士団遊撃隊のリーダーであるセリオスという金髪のおっさんが確認をした。
「事前情報ではつかめませんでした。それを調べることも依頼内容に含めています」
「あいわかった。範囲が広いゆえ、手分けして行動したいがどうかな?」
「エターナルホープは問題ない」
「魔法学院側も問題ないが、俺たちは炎の範囲魔法を得意としているので、広い範囲を任せてもらって構わない。サーチ&デストロイでいくので、巻き込まれないために気を付けてもらいたい」
ダンテが広げた地図に自分の対応範囲を書き込んでいく。
やれやれ、面倒そうな相手だと俺は肩をすくめたい気持ちになった。
それはセリオスも同じだろうか、目と目が合い、どちらともなく苦笑する。
「中心部から広範囲に魔法学院のチームで、そこから東西に分かれて神殿騎士とエターナルホープで対応しよう」
俺が意見をまとめると、全員が頷き作戦が開始された。
「面倒なことにならなきゃいいけどな……」
この一言が現実になってしまうのはそう遠くない未来である。