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第67話 クラリスの実家

 眩しさが晴れたとき、俺の視界は巨大な木の幹で占められていた。


「クガ……!」


 見上げた空一面を青々とした木の葉と枝が覆い隠すあまりの壮大さに、俺は開いた口が塞がらない。


 いや、デカすぎだろこの大木っ。

 俺が巨大化しても敵わないくらい太いぞ。


「そういえばダイナは里の大樹様は初めてだったね」

「クガ?」


 里の大樹様?

 それは初耳だぜ。


 続いて説明を始めたのはアンナだ。


「里の大樹様はな、私たちエルフがこの地に定住する遥か昔から生きていた大いなる存在だ。それだけにここのエルフは皆大樹様を拠り所として敬っている」


 へ~、この世界のエルフってそんな信仰があるんだなあ。俺のファンタジー的なイメージからすればそんなに予想外なことでもないけど。


「それじゃあわたしのおうちに行こっ」

「ああ、そうだな」


 クラリスとアンナに着いて歩くと、里の大樹とやらのすぐ根本に家があった。


 なんていうか、根本の巨大なうろと半分一体化している感じに見える。


「ただいま~!」


 土色の扉からクラリスが元気よく入ると、早速中から柔和な女性の声がした。


「あら、この声はクラリスかしら~?」

「うん! 帰ってきたよママ!」


 クラリスがママと呼んだその人というかエルフは、母親にしてはだいぶ若々しく見える。


 クラリスと同じ金色の髪を頭の後ろでだんごにまとめ、服装も娘とよく似ているながらもこちらはフリフリ感を抑えてスカートもすねが隠れるほど長い。


 そしてクラリスに負けず劣らずの巨乳。


 この母あっての娘ってところか、クラリスは。


「あらまあ。確かに手紙は出したけど、こんなに早く帰ってくるとは思わなかったわ~」

「えへへ、わたしも新しく転移魔法を使えるようになったからねっ」


 口許に軽く手を添えるママさんに対し、クラリスは腕を胸元で構えて得意気だ。


 確かに手紙が来たのも昨日のことだったもんな、それでいきなり帰ってきたんだから驚くのも無理ないぜ。


「私もお邪魔させてもらう」

「アンナちゃんも一緒なの、二人とも本当に仲良しよね~。……ところでそのちょっと大きなのは何かしら、魔物よね?」


 ママさんがアンナに優しげな目をしてたかと思ったら、一転して俺に疑惑の目が向けられる。


 クラリス頼む、かどが立たないように俺のことを説明してくれ!


「この子はダイナ、わたしが使い魔にしたの。ね、可愛いスカーフ巻いてるでしょ~?」

「あらホント。それなら安心ね。クラリスのママからもよろしくね、ダイナちゃん」

「クグルルル」


 えへへ、クラリスのママさんに優しく撫でられて気持ちいいや。


 とりあえず俺のことも認めてもらえて何よりだぜ。


「パパは今も狩りに出てるの~?」

「そうね~。もう少ししたら戻ってくるんじゃないかしら? 今まで疲れたでしょ、ゆっくり休んだら~?」


「そうだねっ」

「いつものことながら感謝する、おばさま」


 そんな会話を交わしたところで、クラリスたち二人に俺は家の中を着いていく。


「懐かしいな~、出発した五年前からなんにも変わってないよ~」

「たかが五年くらいでは何も変わるまい」


 え、クラリスたちって五年も家に帰ってなかったのか!?


 それを五年くらいって軽く言うんだから、やっぱ長寿なイメージ通りエルフって時の感覚が人間とは違うのかもな……。


 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、ピンク色の扉を開けてクラリスが部屋の中に飛び込む。


「ふあぁ~、懐かしい~! 本当にあの時のまんまだよ~!」


 感嘆の声をあげてフワフワしてそうなベッドにダイブするクラリス。


 内装も優しいピンク色で、部屋のあちこちに木彫りの鳥とか可愛い熊のぬいぐるみなんかがきれいに置かれている。


 ゆるふわなクラリスのイメージ通りな部屋だぜ。


「ダイナもこっちおいで~」

「クガッ!」


 ベッドに寝そべりながら腕を広げて招くクラリスの胸元に、俺はぴょんっと飛び込んだ。


 ああ、たわわなおっぱいに加えてベッドのフワフワ感にも包まれて癒されるぜ~。


「アンナちゃんももっとリラックスしていいんだよ?」

「いや、やっぱり他所様の部屋は慣れないな……」

「もー、何を今さら~」


 そう言うとクラリスは俺を放ってアンナをむぎゅーっと抱きしめる。


「わたしとアンナちゃんの仲でしょ~?」

「それもそうだなっ」


 アンナの緊張もほぐれたところで、俺はクラリスの部屋で少しゆっくりすることに。

 やっぱ転移魔法はよっぽど体力を使うのか、クラリスもすぐ眠りについてしまったからな。


 ちなみにアンナは結局空いている別の部屋で休憩することにしたようだ。


 しばらくすると、家の扉を叩く音で俺は仮眠から目が覚める。


 窓から見る外はいつの間にか夕暮れになっていた。

 もうこんな時間になっちまったのかよ。


「クグッ?」


 俺が顔を上げるのと同時に、クラリスがベッドから飛び起きた。


「パパが帰ってきたんだ!」


 そう言うなりクラリスは部屋を飛び出してしまう。


「クガア~!」


 待ってくれよクラリス、俺を置いてくな~!


 慌てて俺も後を追うと、居間ではママさんに加えて優しそうなエルフの男がいた。


「おお、本当に帰ってきてくれたんだねクラリスちゃん!」

「うん、ただいまパパ~!」


 抱きついたクラリスの頭を、パパと呼ばれた優男のエルフが優しく撫でる。


 こいつがクラリスのパパさんか。こちらもだいぶ若そうな容姿だぜ。


「ところでそこにいる魔物は?」

「あのねパパ、かくかくしかじか……」


 クラリスが軽く紹介すると、パパさんが興味津々に俺を見つめてくるように。


「ほ~、クラリスちゃんの使い魔かぁ。ドラゴン種族みたいだけど、見たことがないねー」

「ク、クガ」


 そんなジロジロ見られたら緊張するんだけど。


 するとアンナも少し遅れてこの場に顔を出した。


「おお、アンナちゃんも一緒かー。娘がお世話になってるね」

「いや、礼には及ばないさおじさま。お邪魔してる」


 さっきのママさんもそうだったけど、クラリスとアンナの仲はどうやら両親公認のものらしい。


 それからパパさんは獲物として仕留めたとおぼしき鹿を掲げてこう言った。


「久しぶりにクラリスちゃんたちが帰ってきたことだし、これからお祝いにしよう!」

「それがいいわ~!」


 早速お祝いムードな両親に、クラリスもさすがに照れ臭そう。


「お祝いだなんてそんな~!」

「まあまあいいじゃないのクラリス。久しぶりのおうちなんだから」


 クラリスの腰を抱き寄せてニコニコするママさん。


 なんか楽しそうなことになってきたぜ。

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