翌日、俺たちはアンナの剣を取りに行きがてらエルフの里目指して出発することにした。
「それでは行ってくる」
「またしばらく屋敷をお願いね。またお土産持って帰ってくるから!」
「クガッ」
アンナとクラリスの言葉に、メイドたちはにこやかに応じてくれる。
「屋敷のことは私たちに任せてちょうだい!」
「どうかお気をつけて行ってらっしゃいませ」
「……必ず帰ってきてくださいね?」
ハクナさんとメリッサさんが平然としてる一方で独りだけ不安げなプラム、その頭をクラリスは優しく撫でた。
「心配しなくても平気だよ、プラムちゃん。ちょっと里帰りするだけだから大丈夫っ」
「……そ、そうですね。プラムもクラリス様たちがいつ帰ってきてもいいように屋敷をお守りします……!」
お、プラムも頼りになること言うじゃねえか。
「クグルルル」
「ダイナさんもいってらっしゃい」
今ではプラムも俺に対して物怖じすることもなくなって、こうして俺を撫でてくれる。
「「「それでは行ってらっしゃいませ」」」
恭しいメイド三人に見送られて、俺たちは屋敷を出発した。
「まずはアンナちゃんの剣を取りに行かないとね」
「そうだなクラリス。まあサラのことだからとっくに終わらせていることだろ」
サラに対する厚い信頼を口にするアンナと共に、俺たちは武器屋に足を運ぶ。
「私だ、サラ。メンテナンスを頼んでいた剣を取りに来たぞ」
「は~いっす!」
アンナが扉を叩くなり、サラがハキハキと外に出てきた。
「剣のメンテナンスはもう終わっているだろうな?」
「もちろんっす! ボクの腕にかかればちょちょいのちょいっすよ!」
小さな力こぶを作って得意気なサラは、すぐにアンナの剣を返却する。
「おお。今回もキレイに調整してくれたな。助かるよ」
「へへっ、アンナさんはお得意様なんだから当然っす!」
アンナの感想で自慢気に鼻の下を指でさするサラ。
「あ、そうだ。サラちゃんにも伝えておかないとね。わたしたちこれからしばらくエルフの里に里帰りするんだ~」
「またお出かけっすかあ? 三人とも慌ただしいっすね~」
「いや~それほどでも~」
「多分誉めてないぞクラリスっ」
頭の後ろをさすって笑うクラリスにアンナがさりげなくツッコミ。
本当に二人は仲良しだよな。
……昔っからこんな調子だったのかなあ?
「んー、ボクも行きたいところっすけど。確かエルフ族は本来排他的で、他の種族が領域に足を踏み入れるのを好まないって聞いたっす」
「あ……、確かにそうかもしれないね~」
「里を出た私たちと違って頭の凝り固まったエルフたちも多くいるだろうからな……」
マジかよ。確かにエルフってそういうところあるって設定もファンタジーものとかで見知っていたけどな。
ん、待てよ。じゃあ俺は大丈夫なのか!?
「クグルルル……!」
「ん、どうしたのダイナ?」
俺がクラリスのスカートの裾を口先で引っ張っても、彼女はまたキョトンとした顔。
そんなところにサラが俺の疑問を代弁してくれた。
「そういえばダイナきゅんを里に入れても大丈夫なんすか? 彼一応魔物っすよね」
「それは大丈夫じゃないかなあ? だってダイナはわたしたちの使い魔だし。ねっ、ダイナ」
「……クガ!」
そうだよな。根拠のないクラリスの自信、俺は嫌いじゃないぜ。
「魔物ではないがエルフ族は鳥を使役する習慣があるから、使い魔であるダイナもきっと受け入れてくれるだろう」
「それならよかったっす。……もう行くんすか?」
「うん。早い方がいいと思ってね」
クラリスの返事に、サラはどこか浮かない顔。
「そうっすか。……またちょっと寂しくなるっすね」
「すぐ帰ってくるから安心して、サラちゃん」
「分かったっす。クラリスさんたちもボクのことは気にしないで、故郷でゆっくり羽を伸ばすといいっすよ!」
「うん!」
「そうさせてもらおう」
こうしてサラと言葉を交わしたところで武器屋を後にした俺たちは、
「忘れ物はないな?」
「うん! バッチリだよ!」
アンナの確認にクラリスがボストンバッグを揺らして答える。
ちょっと前まであそこに俺も入ってたんだよな。今じゃ大きくなったから入れないけど……。
「それじゃあ行っくよ~! ――
意気揚々と腕を挙げたクラリスがどこからか杖を取り出すと、一転して目を閉じながら集中し始める。
すると俺たちの足元に光り輝く魔法陣が展開し始めた。
この転移魔法は術者の記憶にあるところならどこへでも行けるらしく、クラリスの故郷ももちろん例外ではない。便利なものだぜ。
「はああ……! それぇ!」
クラリスが魔力を込めたとき、目の前が真っ白になった。