翌日俺はアンナとクラリスの二人と一緒に、サラの武器屋へ行くことにした。
あの竜娘と顔を会わせるのも久々だよなあ、元気にしてるといいんだけど。
剣と盾を持ったドラゴンの看板に見下ろされながら扉をくぐるなり、中からサラが飛びついてきた。
「ダイナきゅ~ん! 会いたかったっす~!!」
わぷっ、ほのかなおっぱいの膨らみはいいんだけど、サラの腕力で俺の首が絞め落とされそう。
「おいサラ、落ち着け」
「そうだよサラちゃん、ダイナが苦しそうだよ?」
「おっとごめんなさいっす」
アンナとクラリスの声掛けで俺を解放したサラを、今度はクラリスが抱きしめた。
「久しぶりだねサラちゃんっ」
「そうっすね。クラリスさんのお胸も相変わらず大きいっす……」
「全くお前らは……」
二回も似たようなやり取りを見せられて、アンナはやれやれと肩をすくめる。
「それで今日は何のご用っすか? アンナさん」
「サラ、今日も私の剣のメンテナンスを頼みたい」
「了解っす! ……塩気がずいぶんついてるっす。そういえばアラナギ海岸に行ってたって言ってたっすね」
なるほどサラの目利きでアンナの剣を見ればお見通しってわけか。
「それじゃあメンテナンスしておくっす、しばらくしたらまた来るといいっすよ」
「ああ、頼んだ」
「それにしても……」
そう呟くサラの目が再び俺に向く。
「ダイナきゅんっすよね、ちょっと見ない間にずいぶん変わったっす」
「クガ」
そりゃ分かるよな、だって身体が大型犬並みになっただけでなく全身に漆黒の装甲がまとわれたのだから。
「ダイナってばすごいんだよ! 進化したらね、すーっごく強くなったんだから!」
「ふむふむ、それは気になるっすねクラリスさん。ボクもダイナきゅんの新しい力、見てみたいっす!」
目をこれでもかとキラキラと光らせるサラに、アンナがジト目でこう諭す。
「――私の剣を見た後に、な」
「も、もちろんっすよ。あはは……」
そうしてアンナの剣をサラに任せたところで、俺たちは武器屋を出た。
「それにしてもサラちゃん、嬉しそうだったね~」
「どうもあいつ、ダイナにただならぬ興味があるみたいだからな……。同じドラゴン種族として何か感じるところがあるのだろう」
ドラゴン種族、か。俺とサラって近しいものがあるんだろうか。
まあそんなこと考えてもも仕方ないよな。
ふとどこからか緑色の鳥が、クラリスの元に飛んでくる。
「クガ?」
「あ、エルバードだ。……何だろう?」
クラリスの伸ばした腕に止まるエルバード、その足には紙きれが結ばれていた。
「なになに~、えぇ……」
「どうしたクラリス? ――ううむ、これは……」
紙切れの中身を見るなり、クラリスとアンナは顔を露骨にしかめる。
どうしたんだ?
そんな思いを抱えながら俺が口先でクラリスのスカートを引っ張ると、彼女はキョトンとした顔をする。
「クルルルル」
「あれ、どうしたのダイナ?」
うーん、俺の言いたいことが伝わってないな?
続いて俺はクラリスの手にある手紙を口でつまみとる。
「ちょっと~! それ大事な手紙だよ~!?」
「――クラリス、ダイナにもその手紙のことを伝えておかないか?」
お、ナイスだぜアンナ。
「そっか、ダイナも手紙の内容が気になるんだね。あのね、わたしの両親がエルフの里に一度帰ってくるよう、わたしたちにこの手紙を宛てたみたいなんだ」
「クガ!?」
エルフの里って、もしかしてクラリスとアンナの故郷って奴か!?
「どうするクラリス、この分だと何やら面倒事が待っていそうだぞ」
「んー……。でもわたし、お母さんとお父さんの顔も久しぶりに見てみたいかな~。アンナちゃんはそう思わない?」
「確かにそれもそうだな」
「決まりだねっ」
何やらクラリスとアンナの二人で話がまとまった様子。
「それじゃあ早速、エルフの里エルシアンへ!」
「いやいや待て待て! 私の剣がまだだろうが! それに里へ行くにしても屋敷にいるメイドたちや知り合いたちにも伝えておくべきだろ!」
「あ、そっか」
アンナの指摘でポカーンとするクラリス。
ったく、クラリスも相変わらず抜けてるところあるよな。
「それじゃあまずは一旦屋敷に帰ろっか」
「そうだな」
「クガッ」
クラリスの一声で、俺たちは屋敷へ戻ることに。
板チョコのような屋敷の扉がひとりでに開くなり、いつものようにメイド三人が恭しく出迎えてくれる。
「「「お帰りなさいませお嬢様方」」」
さすがにこの出迎えも慣れてきたぜ。
「あのね皆さん、わたしたち明日から少し故郷に里帰りしようと思うんだ」
「クラリス様方の故郷、ですか」
目を丸くするメリッサさんに、アンナが付け足す。
「急な話ですまない。昨日帰ってきたばかりだが、また留守を頼みたい」
「そういうことならお安いご用よ」
「……プラムたちが責任持ってお屋敷を管理いたしますねっ」
頼りになりそうなハクナさんと、まだまだ不安の拭えないプラム。
そんなプラムにクラリスはこう言った。
「安心してプラムちゃん。すぐ帰ってくるからね」
「は、はい……っ」
これでメイド三人との話はついたかな。
次に向かったのはいつもお世話になってるギルドだ。
中に入るなり受付嬢のリコッタさんが声をかけてくれる。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件で?」
「あのねリコッタさん、わたしたち少しの間故郷に里帰りしようと思うんだ」
「そうですか。しかしなぜそのようなことを私に?」
眼鏡をくいっと指で押し上げて首をかしげるリコッタさんに、アンナが答えた。
「いつも世話になってるからな。こういうことも伝えておいた方がいいだろう」
「そういうことならお気になさらず。一応ギルマスにも伝えておきますね。どうかお気をつけて」
手を振るリコッタさんに見送られて、俺たちはギルドを後にする。