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第64話 一週間ぶりの我が家

 ナギサの町の外れで一目につかない場所に移動したところで、クラリスが転移魔法を使うことに。


瞬間転移テレポート!」


 クラリスがそう唱えるや否や俺たちの足元に大きな魔法陣が展開して、次の瞬間には目の前が真っ白になる。


「……クガ?」

「どうやらブラウンの街に戻ってきたようだな」


 気がつくと俺たちは出発地点であるブラウンのギルドの前に転移していた。


 行ったことのある場所ならどこでも転移できるって、さっきクラリスが言ってたのは本当だったんだなあ。


 そんなことを思っていたら、転移魔法を使ったクラリスがまたふらっとよろめく。


「クラリスっ」


 咄嗟にクラリスを抱き止めるアンナ。


「えへへ、やっぱり転移魔法は大変だよ~」

「お前は妙なときに無茶をして、全く世話が焼ける」

「いやー、それほどでも~」

「誉めてないっ」


 コントじみた軽口を叩きあうあたり、クラリスとアンナの深い絆が俺にも見てとれる。


「それじゃあギルドへ報告に行こっか」

「休まなくていいのかクラリス?」

「わたしは平気だよ、それよりもお仕事をさっさと片付けなくっちゃ」

「それもそうだな」


 健気なクラリスにアンナがふっと軽く笑ったところで、俺たちはギルドの門をくぐった。


 いやー、冒険者でいっぱいなこの空間も久しぶりだぜ。


 ほら、むさ苦しい野郎共がクラリスとアンナをジロジロ見てやがる。


「見ろよ、あいつら久しぶりじゃねえか?」

「ああ、一週間ぶりくらいだよな」

「それにしてもあの二人、いつ見ても可愛いよな~」

「あのおっぱいたまんねーぜぇ」

「おっぱいもいいけど脚もなかなかだろぉ?」


 鼻の下伸ばしてるそこの野郎共、クラリスとアンナはお前らなんかに渡さないぜ?


 そんな思いを込めて俺が鬼の形相(のつもり)でにらみ返すと、冒険者の野郎共はそそくさと目をそらす。


 密かな俺のボディーガードに守られながら、クラリスとアンナは受付嬢のリコッタさんに声をかけた。


「リコッタさーん、お久しぶりで~す」

「あら、クラリス様にアンナ様じゃないですか。ナギサでの依頼はどうでしたか?」

「それなんだが、これでどうだ?」


 アンナが提出したビアンカさんの証明書を、リコッタさんがニコニコしながら受けとる。


「こちら……ナギサのギルドマスタービアンカ様から……。ただいま確認させていただきますね」


 リコッタさんが眼鏡をくいっと上げて証明書を確認すること少し。


「はい、確認いたしました。依頼達成お疲れ様です」


 そう告げたリコッタさんは、クラリスとアンナのギルド証にハンコを添える。


 Bランクになった二人のギルド証は、今やそれを示す銀色のものだ。


「それとそちらの使い魔さんなのですが、ずいぶんとご立派になられましたね……」

「ダイナのこと? はい! 今回の戦いでもっと頼もしくなりました!」


 リコッタさんの質問に答えつつクラリスが俺の首に腕を回してくれる。


 同時に俺の顔に豊満なおっぱいが押し当てられて最高だぜ。


「それではこちら報酬になります。またのご利用をお待ちしてますね」


 通貨で一杯の布袋をくれたリコッタさんに見送られて、俺たちはギルドを後にする。


「見てみてアンナちゃん、金貨がこんなに!」

「頑張った甲斐があったというものだな、クラリス」


 報酬としてはこの前のレッドドラゴン討伐に匹敵する大金を手にしてはしゃぐクラリスに、アンナも嬉しそうだ。


 やっぱクラリスは純粋だよなあ。これから冒険者として経験を積んでもこの純粋さはなくならないでほしい。


「それじゃあおうちに帰ろっか」

「ああ、そうだな」

「プラムちゃんたち元気にしてるかな~?」


 足取りを弾ませるクラリスについていきながら、俺たちは自宅である白い屋敷に帰ってきた。


「見た限り変わりはなさそうだな」


 アンナの言う通り、一週間ちょっと家を空けていたにも関わらず屋敷の外観はきれいに保たれている。


 うちのメイドさん優秀だなあ。


 板チョコのような門がひとりでに開くと、中で三人のメイドが出迎えてくれる。


「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」

「みんなただいま~!」


 粛々としたメイド三人に、クラリスはフランクな態度で順番にハグを交わした。


「クラリス様たちがご無事で、プラムは何よりです」

「心配かけちゃってごめんねプラムちゃん。でもほら、おみやげもあるからね」


 プラムともハグをしたクラリスの言葉に目を丸くしたのは、多分メイドの中で最年長のメリッサさん。


「まあ、メイドのわたくしたちにおみやげですか」

「だってメリッサさんたちも今はもう家族だもん、当たり前だよ!」

「我々を家族と……お喜ばしい限りですわ」


 今まで厳格な印象が強かったメリッサさんが顔をほころばせるなんて意外だぜ。


「ダイナ様もその……ご立派になられましたね」

「ガウッ」

「ひっ」


 俺の変化に気づいたプラムだけど、返事をしたら腰が引けてしまってた。


 まだ俺のことが怖いのだろうか……?

 まあ今の俺は大型犬くらいある恐竜だからな……。


 そんなちょっと気まずい空気を破ってくれたのは、同じくメイドのハクナさん。


「お二人とも疲れてるでしょ? 屋敷のことは私たちメイドに任せてゆっくりするといいわ」

「助かるよハクナ」


 アンナが感謝したところで俺たちは部屋へ向かうことに。


「はひゃーっ。やっぱり自分ちのベッドは格別だよ~!」


 部屋に入るなりベッドに飛び込むクラリスに、俺もご一緒させてもらう。


「クグルルルル」

「ダイナもお疲れ様~」


 へへっ、クラリスみたいな美少女に労われるのもいい心地だぜ。


「少ししたら風呂に入ろう。クラリスも疲れてるだろ?」

「いいね~。お風呂でゆっくりしよっかぁ。もちろんダイナも一緒にね?」

「クガ!」


 こうして俺は一時の安らぎを噛みしめることになったのだ。

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