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第63話 取り戻した海の平和

 心行くまで温泉で疲れをとった俺たちは、再びコミューンフィッシュの絨毯で里へ戻ることに。


 当たり前だけどクラリスたちは服を着直している。


「いや~、すっごく気持ちいい温泉だったね~!」

「ああ。海の巫女一族が守り継ぐ秘伝の湯だというのも納得だな」


 そう温泉の感想を語るクラリスとアンナ、二人ともどことなく肌の艶が増しているように見えるぜ。


「クグルルルル」

「えへへ、ダイナも気持ちよかったんだよね~」


 俺が擦り寄せた顔をクラリスが優しく撫でてくれる。

 温泉もそうだけどやっぱ美少女の裸は眼福だったぜ。


 ふとソフィーが遠慮がちにこんなことを。


「ダイナさんの装甲なのですけど、白仙の秘湯に入って明らかに輝きを増してません?」

「言われてみればそうだな」

「そういえばあの美味しいお茶を飲んだときも、そんな感じになってたよね~。もしかしたらこの里のお水と相性が良いのかも?」


 ソフィーたちの言う通り、俺の装甲はこの里の水に触れるたび輝きを増している。


 こんな石みたいな装甲つけてるはずなのに、そんなことを感じさせないくらい身体も軽いぜ。



 その後里に戻った俺たちは、海の巫女一族の皆さんから感謝の宴会を施されることになった。


「我らが守り神オシアノス様を救ってくださったクラリス殿たちに乾杯!」


 長老様の一声で、広場に集められた全員が酒の注がれた杯を掲げて乾杯をする。


 もちろんクラリスとアンナもそれにならって加わった。


 ていうか二人とも酒なんて飲めるんだな。もしかしたら異世界のお約束として成人年齢が俺の知るよりも早いのかも。


「ぷは~っ! 美味しい~!」

「ああ。こんなうまい酒は初めてだ」


 二人が飲んでいるのはどことなく日本酒を思わせる透き通った酒。


 俺としてはツーンとした酒の匂いが鼻をついてちょっと気分が悪くなるぜ。


 もちろん酒以外にもいろんなご馳走がもてなされて、こちらは俺も頂くことができた。


 もっとも肉食恐竜の俺だから食えるのは魚料理だけなんだけど……。


 歌って踊って大にぎわいな宴会が終わる頃には、亜空間にあるはずの里もすっかり夜になっていた。


 俺たちはソフィーの実家で夜を過ごすことに。


 すっかり千鳥足で連れ歩くのも大変だったアンナは、服を脱ぎ捨て全裸で布団に横たわる。


「ういー、ひっく。もう飲めないぞ……」

「んも~、アンナちゃんってば飲み過ぎだよぉ」


 そういうクラリスも頬がほんのり赤く染まってるけどな。


「皆様宴会を楽しんでいただけて何よりです」

「えへへ~、こちらこそだよ~」


 ケロッとした顔のソフィーに対して、クラリスはほろ酔い気分で応える。


「それじゃあもう寝よっか。おやすみダイナ」

「クガッ」


 クラリスが穏やかに眠りについたところで、俺もその豊満なおっぱいに顔を埋めて眠りにつくのだった。

 今日は激動の一日で疲れたぜ……。



 翌朝、俺たちは里からナギサの町に戻ることに。


「皆さん昨日はお世話になりました~」

「よそ者だった私たちを歓迎してくれたこと、感謝する」


 恭しく頭を下げるクラリスとアンナに、長老様とソフィーはにこやかに微笑んでいた。


「例を言うのはこちらの方じゃよ。お主らがいなければオシアノス様も我々海の巫女一族も滅んでいたはずじゃからのう」

「クラリスさんにアンナさん、それからダイナさん。皆さんには本当にお世話になりました!」


 それぞれの言葉を交わしたところで、俺たちはまたソフィーの案内で里と町を繋ぐ亜空間の通路を歩く。


「……これで皆様ともお別れ、ですね……。どうしてでしょうか、なんだか寂しいです」

「ソフィーちゃん……。大丈夫だよ、離れていても心は繋がっている。だってわたしたち、もう仲間だもん」

「クラリスの言う通りだ、私たちの絆は決して切れるものではない」

「仲間……心地いい響きです」


 クラリスとアンナに手を握られて、ソフィーは胸に手を添えてその言葉を噛みしめていた。


 そうこうしてるうちに出口が見えてきたぜ。


「それでは皆さん、お元気で」


「ソフィーちゃん、また会おうね~!」

「またどこかでな!」

「グルルウ!」


 お互い手を振って俺たちはソフィーと別れるのだった。


「さて、次はギルドへの報告だな」

「そうだったね、ビアンカさんも心配してるかもっ」


 続いて俺たちが向かったのは、海の家にしか見えないと俺の中で定評のあるナギサの町のギルドだ。


 木の扉を潜るなり駆けつけてきたのは、案の定ビアンカさん。


「お帰り二人とも! 無事だったのね、良かったわ~!」


「うぷっ!?」

「ビアンカさん苦しいよ~!」


 ビアンカさんにまとめて抱きしめられて、俺たちはうめく他ない。


「町に出たあの怪物がいなくなってから海の魔物たちもすっかり大人しくなったけれど、あなたたちのおかげなのよね?」

「そっか。わたしたちがこの町と海を救ったんだね」

「ああ。そうだなクラリス」


 それからお互いの情報を交換したところで、クラリスがこんなものを取り出してビアンカさんに見せる。


「これはっ、うちのギルド証じゃないの! どこでこれを!?」

「あの、実はこれリビングデッドが落としたものなんですけど……」


 クラリスがそう伝えるなり、ビアンカさんの顔に影が差し込んだ。


「……やっぱりそうだったのね」

「どういうことだ?」

「この前のリビングデッドたち、元々あたしのとこの冒険者だったの。行方不明だったのだけどまさかリビングデッドになってたなんてね……」

「そうか……」


 そりゃ落ち込むって、だってせっかく再会した仲間があんなゾンビみたいな奴になってたらな……。


「――とにかく二人ともお疲れ様。これをブラウンのギルドに渡せば依頼達成になるわ」


 そう言ってビアンカさんがアンナに手渡したのは一枚の書類。


 いわゆる証明書って奴か。


「ありがとうございます、ビアンカさん」

「世話になったな」


 こうして俺たちはアラナギ海岸での一件を片付けることができたのだった。

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