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第60話 決着

「グエエエエエエエン!!」


 恐ろしげな雄叫びと共に、オシアノスが口に水を凝縮し始める。


 早くも大技を仕掛ける気か!?


 そう思ったのもつかの間、オシアノスの口から凄まじい勢いの鉄砲水が放たれる。


 ここは防御だ!


 俺が前に出てクラリスたちを鉄砲水から庇う。


「グルルルルル……!」


 だけどなんて勢いなんだ、この頑丈な鎧をもってしても押し出されそうだ……!


 これじゃあ埒が明かない、こっちも仕掛けるぞ!

 足を踏みしめて俺は、鉄砲水に逆らって前進する。


「ダイナの奴、なんて凄まじい力なんだ……!!」


 背後でアンナが目を白黒させているが、まだまだこれからだぜ!


 肉体改造ビルドアップ


 念じるなり俺の全身の筋肉がみなぎり、オシアノスの鉄砲水を一気にはね除けた。


 今度はこっちがたたみかけるぜ! 竜伝舞踊ドラゴンダンス


 念じた次の瞬間、俺の身体に紫のオーラがまとわれて、ゆったりとしたステップを身体が勝手に刻み始めた。


「えっ、何それ踊り~!?」

「いや、ただの踊りじゃない! ダイナの力が上がってるように見えるぞ……!」


 アンナの言う通り、ステップを刻むごとに俺の身体に不思議な力が湧いてくるようだ。


 よし、これなら!


 俺が地面を蹴ると、いつもの五割増しくらいのスピードで駆け出すことに。


 オシアノスが立て続けに放つ水の弾丸を漆黒の鎧で防ぎながら接近した俺は、自慢のあごでその顔面に食らいつく。


「グエエエエエエエン!?」

「グルウウウウン!」


 大きく体制を崩すオシアノス、だけどその顔も固くて歯が立たない!


 そうだ、もう一つ新しいスキルを試してみよう。


 極大破砕ギガクラッシュバイト


 すると今度は白熱したように光る俺の牙が、オシアノスの顔面に深々と突き刺さった。


「グゲエエエエエエ!!」


 オシアノスが俺の牙を外そうともがくけど、そうはいかない。


 俺はさらにあごの力を強めてオシアノスの顔面を噛み砕こうとした。


「グルルルルルウン!」

「グエエエエエエエン!!」


 だけどオシアノスも抵抗を止めない、今度は周囲に渦潮を巻き起こして俺を飲み込もうとする。


「ダイナ!」


 ぐぐっ、苦しい!


 アンナの叫びもおぼろにしか聞こえないぜ。


 渦潮の勢いでたまらず口を離してしまった俺は、そのまま巻き込まれてしまう。


「グエエエエエエエン!!」


 俺が体制を崩したのをいいことにオシアノスは周囲に魔法陣をいくつも展開して、無数のサハギンを召喚した。


「グウイイイイイ!!」

「グウイイイイイ!!」


 数が多すぎる、だけどもう一度大技を打ってまた体制を崩したら……!


 その心配は杞憂だった、無数のサハギンはクラリスとアンナが怒涛の勢いで倒してくれるみたいだ。


「ここはわたしたちに任せて!」

「お前はオシアノスを!」

「グルウン!」


 そうだ、仲間がいるのを忘れかけてたぜ。


「グエエエエエエエン!!」


 再び口に水を凝縮しようとするオシアノス。


 俺もここで決めねえと! ここはもうひとつ新しく覚えたスキルだ、極炎奔流インフェルノバスター!!


 俺の開け放った顎門あぎとにとてつもない熱が凝縮され始める。


 そしてそれは灼熱の奔流として放たれた。


「「いっけええええええええ!!」」


 クラリスとアンナの二人の声援に応えるよう、俺はさらに力を込める。


「グエエエエエエエン!!」


 フルパワーの灼熱をまともに食らったオシアノスの巨体が、力なく崩れ落ちた。


【レベルが43になりました】


 かなりの強敵だと思っていたのにレベルの上がりが渋いな。進化して必要な経験値でも増えたのか?


 ……うげっ、また目の前が霞んできた。ちょっと無茶しすぎたか……!


 足元から崩れそうになるのをこらえて、俺はオシアノスをぎっとにらむ。


「オシアノス様ーーーーーー!!」


 間髪いれずにソフィーがオシアノスに駆け寄って、その顔を抱擁した。


「オシアノス様、しっかりしてくださいオシアノス様ぁ!!」


 ソフィーの必死な呼び掛けに、オシアノスは頭を弱々しくもたげる。


「ソ……ソフィー……ヨ」

「オシアノス様!」


 オシアノスの言葉にソフィーがぱぁ……と顔を明るくしたけど、それも一瞬だった。


「強キ者ヲアリガトウ……オカゲデ我モ楽ニ眠レソウダ……」

「オシアノス様……?」


 瞠目するソフィーの懐で、オシアノスの身体はみるみるうちに石化していく。


「オシアノス様!? オシアノス様ーーーーーーー!!」


 石になってしまったオシアノスに、ソフィーはただ泣きじゃくることしかできなくて。


 そんな彼女に救いの言葉を差しのべたのはクラリスだった。


「落ち着いてソフィーちゃん、オシアノス様は死んでないよ」

「……え?」

「オシアノス様の内にとっても微かだけど、確かに魔力を感じる。オシアノス様は深い眠りについたんだよ」

「……良かった……!」


 ほっと力が抜けたように膝をついたソフィーは、憑き物が落ちたかのように笑みをこぼす。


「どうやら終わったみたいだな、ダイナ」

「グルウ」


 そうだな、アンナ。これで一件落着だよな。


 ふとオシアノスのすぐそばに、青い宝石が一つ転がってるのにクラリスが気づく。


「これは何だろう?」

「サファイア、ですかね?」

「凶暴化した存在から、また宝石か……。これは偶然なのか……?」


 唐突に姿を現した不可解なサファイアに、あごをなでて考え込むアンナ。


 そういえばこの前レッドドラゴンを倒したときも赤いルビーが出てきたよな。

 まさか今回も……?


 だけどサファイアもまた、急にどこかへと飛んでいってしまった。


 何だったんだ……?


 一抹の謎は残りつつも、オシアノスの救済に図らずとも成功したのだった。

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