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第59話 降り注ぐ火炎の雨

「グエエエエエエエン!!」


 もはや理性を失った怪獣のように恐ろしげな雄叫びをあげて町の方へと突き進むオシアノス。


「そんな、オシアノス様……!」


 その変わり果てた様子に、ソフィーは言葉が出ない。


 そんなオシアノスを取り巻くように、ゾンビみたいな奴らの集団が先行して町で人々を襲っている。


「とにかく今はこの町のみんなを守らないと!」

「そうだなクラリス!」


 先んじて惨事の方へ駆け出すクラリスとアンナに俺もついていこうとしたけれど、ふと後ろを振り返るとソフィーが呆けた感じで突っ立っているばかりだった。


「クガッ!」


「え、あのっ、ダイナさん!?」


 こんなところに置いていくわけにもいかないので、俺はソフィーの振り袖をくわえて彼女も現場に連れていくことに。


 少し遅れて到着すると、町を守る騎士の皆さんに混じってアンナとクラリスがゾンビ共の相手をしていた。


「はあっ、この!」


 アンナが見事な剣捌きでゾンビをいなす背後で、クラリスが魔法を唱えている。


生屍浄化ターンアンデッド!」


 クラリスの杖から放たれるまばゆい光を浴びたゾンビは、たちまち粒子となって消滅した。


 ……さっきからゾンビゾンビ言ってるけど、本当はどんな奴らなんだろう?


 早速分析眼光アナライズアイで見てみることにした。


個体名:パック・サラン

種族名:リビングデッド


 なるほど、この世界ではリビングデッドっていうのかこいつらは。


 ……ん? でも個体名がちゃんとあるぞ。


 不思議に思ったので他のリビングデッドも分析してみたら、それぞれに違う個体名があった。


 もしかしてこいつら、元々は普通の人間だったってことか……!?


 だけど目の前のリビングデッドは理性はおろか感情らしい感情もなしにただ目の前の人たちに襲いかかろうとしている。


 映画のゾンビと同じで、リビングデッドになってしまったらもう人としての自我は失われているってことか。


 ……それならそれで罪悪感がなくていいぜ!


 鎧装着脱アーマースリップで漆黒の鎧をまとった俺は、早速スキルを使った。


 火炎息吹ファイヤーブレス


 俺の口から吹いた火炎が、リビングデッド共を焼いていく。


 だけどこのペースじゃキリがない!


 クラリスみたいに一瞬でリビングデッドの肉体を消滅させられないか?


 そんなことを思い詰めながら火を吹いていたら、突然頭の中に例のアナウンスが流れる。


【条件を満たしたことにより、スキル火炎噴石フレイムイラプション極炎奔流インフェルノバスターを習得しました】


 おお、ここで新スキルとはありがたい! 早速使ってみるか!


 火炎噴石フレイムイラプション!!


 そう念じるや否や、俺の口にとてつもない熱が凝縮される。


 おわっ、熱っつ!!


 熱に耐えかねて上を向いたその瞬間、打ち上げられた火炎弾が頭上で放射状に分岐して目の前のリビングデッド共に降り注ぐ。


「え、あれダイナがやってるの!?」


「なんて威力だ……!」


 ほんとにその通り、俺自身このスキルの馬鹿威力に動揺しているよ。


 さらには俺の目視したリビングデッドの数に応じて投下する火炎弾が範囲を大きく広げてくものだから、クラリスたちを巻き込まないかヒヤヒヤものだった。


 幸いクラリスがいつもの魔法障壁マジックバリアでアンナごと身を守ってくれていたから事なきを得たものだけど。


 結局この火炎噴石フレイムイラプションでリビングデッド共を全員焼き払ってしまった。


「クガ、クガァ……」


 あれ、目の前が霞んで見えるような……。


「ダイナあ! ちょっと待ってて、今助けるから!」


 すぐ駆けつけてくれたクラリスが青いポーションを飲ませてくれたおかげで、目の前のちらつきが収まってくれた。


「ダイナ! ……無茶してもう~!」


 わぷっ、クラリスに抱きしめられて豊満なおっぱいが顔面をっ。


 ああ、至福だぜ。


「クルル……」


「――二人とも、安心するのはまだ早い」


 咳払いをしたアンナの言葉で前を見据えると、バリアで俺の火炎弾をしのいでいた巨大なオシアノスの姿が。


「グエエエエエエエン!!」


 恐ろしげな咆哮を轟かせるオシアノスに対し、俺たちは怯むことなく気を引き締める。


「どうやらここからが本番のようだ」

「気を引き締めていこっ、みんな!」

「クガッ!!」


 アンナとクラリスが改めてそれぞれの武器を固く握りしめて構えた。


 よし、こうなったら俺も本気を出すか!


 ――質量変身サイズシフト


 念じた途端に俺の身体がみるみる巨大化して、クラリスたちを見下ろすまでになる。


「あ、あ、あ……!」


 振り向いてみれば、ソフィーが瞠目して動揺しているのが見えた。


 あれは巨大化した俺に対してなのか、それとも暴走するオシアノスに対してなのか。

 そんなことはどうでもいい、俺たちでオシアノスを止めるんだ!

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