「魂を天に還すって……!」
「それは我々にオシアノスを殺せということか……!?」
長老様の非情な決断に、クラリスとアンナは絶句してしまう。
そんな二人に重々しく頷く長老様に、異を唱えたのはやっぱりソフィーだった。
「待ってください! オシアノス様を殺めるなんてもってのほかです! 他に方法はないのですか……?」
取り乱すソフィーを、長老様は目を閉じながら静かに諭す。
「探せばあるやも知れん。しかし今そのような時間があるか? 海の魔物が勢いを強め、海そのものも毒されていると報告したのはお主じゃ」
「それは……確かにそうですけど。それでも! オシアノス様を殺めることのない方法があるはずです!」
「――それは何だか、お主は分かっておるのか?」
「それは……」
長老様の問いにソフィーはうつむいて押し黙ってしまった。
ちょっと付き合っただけでもソフィーの信仰深さは分かるからなあ、だけどそれは長老様だって同じはず。
「クルル……」
俺が顔を擦り寄せると、ソフィーは態度を和らげて応えてくれた。
「すみませんダイナさん。……自分も分かっているのです、長老様の決断に間違いはないと。でも……!」
俺の顔を撫でるソフィーの青い瞳からはボロボロと涙がこぼれ落ちている。
そんな彼女を目にして、クラリスとアンナも物憂いげにうつむいていた。
そんなときだった、突然さっきのグリスが慌ただしく長老様の元に駆けつけてきた。
「大変です長老様! 里に海の魔物共が!!」
「なんじゃとお!?」
その報告を聞いていたクラリスたちと一緒に慌てて外に出てみると、里の入り口からサハギン共があふれようとしているのが目に飛び込む。
「グウイイイイイ!!」
「グウイイイイイ!!」
そんなサハギン共を里の人たちがそれぞれの手段で食い止めようとしている。
サハギンと戦うだけじゃなくて、舞を踊ることでサハギンが里に侵入しようとするのを防いでる人までいるぜ。
「一体何が起きているのですか……!?」
「ソフィーよ、どうやら残された時間は予想よりも遥かに短いようじゃな」
「それって……!」
「うむ、暴走したオシアノス様が向こうで再び猛威を振るおうとしている」
里の長老様の言葉に、クラリスが突然突っ走った。
「待てクラリス! ――全く仕方のない奴だ!」
「クガァ!」
アンナと俺も続くと、舞でサハギンを食い止めている巫女さんたちの手助けをクラリスがしているところで。
「わたしも力になります!
クラリスの魔法で、舞を踊る巫女さんたちに力が送られる。
「この力は!」
「これで魔物を里の外に弾くことができるわ!」
さらに強固となった巫女さんたちの力で、サハギン共は里の外に追いやられたのだ。
「ありがとうございます、あなたのおかげで里から魔物を排除することができました。それと……」
「先程はあなたたちをよそ者として邪険な目を向けたこと、ここにお詫びします」
揃って頭を下げる里のみんなに、クラリスはあわあわとうろたえる。
「い、いえ! わたしはただこのきれいな里を守る皆さんの手助けをしただけで……!」
「――それがクラリスの功績なんだ」
そんなクラリスの肩に、アンナが手を置いた。
「クガッ」
俺もクラリスのたわわなおっぱいに顔を擦り寄せて労う。
……背伸びした俺の背丈的に擦り寄せたのがたまたまクラリスの胸辺りになっただけなんだからな、決してやましい気持ちなんかないぜ?
「そ、そうだね」
「はあ、はあ、はあ……良かった……!」
息を切らしながら遅れて駆けつけてきたのはソフィーだ。
「やはりさすがですクラリスさん。その力があればオシアノス様も……!」
「――そうだよ、オシアノス様だよ! 残されてる時間は短いって、長老様も言ってたよね!?」
「は、はい」
ソフィーの返事を聞いてクラリスは確固たる目を向ける。
「ソフィーちゃん行くよ、もう一度オシアノス様のもとへ」
「はい!」
ソフィーの案内で急いでナギサの町に戻った俺たちは、そこで信じられない光景を目の当たりにすることに。
「ウソでしょ……!?」
「こんなことがあるというのか……!?」
そこにはゾンビみたいな奴らを引き連れて町へと侵攻する巨大な亀オシアノスの姿があったんだ。