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第57話 里の長老の決断

「長老様!」

「長老様!」

「長老様!」


 里の皆が口を揃えて長老と呼ぶ老婆は、まずサザンといつの間にか目を覚ましたグリスにゲンコツをお見舞いした。


「痛って! 何するんですか長老様ぁ!?」

「っ!」

「それはこっちの台詞じゃ! 来客に無礼を働きおって!!」

「「来客……!?」」


 長老から来客のことを知らされたサザンとグリスの二人は、目を点にして唖然としている。


 それから長老様がこちらに向き直るなり、深々と頭を下げて詫びた。


「里のものが大変な無礼を働いたこと、申し訳ない。ほれ、皆も頭を下げるのじゃ!」


 長老様の一声でこの場にいる里のみんなも頭を下げたものだから、クラリスたちはオロオロと動揺してしまう。


「いえいえそんな! こちらこそなんか申し訳ないですよ~!」

「我々はそちらのいうよそ者なのだ、このような目を向けられることは覚悟すべきであった」


 口々に弁明するクラリスとアンナに、長老様はこう言った。


「いや、里の者の不手際はわしの不手際じゃ。……ここで立ち話をするのも難じゃからわしの家まで来てくれるかの」


 こうして俺とクラリスとアンナは、ソフィーと一緒に長老様の家まで連れられることになった。


 道中歩いていると古きよき和風の民家がポツポツと散見される。


 もしかしてここも東方の島国とやらの文化が及んでいるのか? 

 ……でもよそとの交流をほとんどしてないって話だし、ここの人たちもずいぶん閉鎖的な雰囲気だけどなあ。


 そんな考察をする俺をよそに、クラリスとアンナは白く煌めく田園風景に夢中になっている。


「わ~、やっぱりきれい。なんか心がゆったり落ち着く気分だよ~」

「しかしこの感じ、どこかで見覚えがあるな……」

「そういえばこの前サラちゃんと行った温泉宿も似た雰囲気だったよね。たしかあそこは東方の……」

「それだ、東方の島国だ」


 アンナが東方の島国と口にしたら、反応したのはソフィーだ。


「東方の島国をご存知なのですか?」

「ああ。とはいえ私もそこの文化を似せた温泉宿を知ってるくらいだが」

「東方の島国はかつて自分たち海の巫女一族の祖先が生きていた故郷なのです。そうでしたよね、長老様」

「その通りじゃ。我々海の巫女一族は遠い昔にかつて東方の島国からこの地に移住してきたと言われておるのう」

「それで雰囲気が似てるんですね~」


 そんなことを話しているうちに、俺たちは一際立派な古民家にたどり着く。


 ここが長老様の家か。


 クラリスたちが靴を脱いで上がった家の中は真ん中に囲炉裏がある、昔ながらの質素な日本の民家を思わせるもので。


 正座で座った長老様が、改めて頭を下げる。


「重ね重ねであるがこちらの不手際で見張りの者が無礼を働いたこと、誠に申し訳なかった」

「いえいえ! わたしたち気にしてないですってば」

「私もクラリスと同じだ」


 クラリスとアンナがその旨を伝えると、長老様はほっと一息ついて頭を上げてくれた。


 それからすぐにお付きの者らしき女の人が配ってくれたのは、湯呑みに注いだ乳白色の温かそうな飲み物。


「これは?」

「こちらは海の巫女一族の里にのみ伝わる茶、白仙茶です」

「ソフィーちゃん、これお茶なの!?」

「これは見たことのない茶だな……」


 そう口にしながらクラリスとアンナが白仙茶とやらをすすると、ほおと息をついて感想を告げる。


「これはいい茶だな、まろやかでかつさっぱりとした味わいが安心する」

「こんなお茶初めてだよ~!」

「それは良かったのう」


 白仙茶に舌鼓を打つクラリスとアンナの二人を見て、長老様はしわだらけの顔をほっこりと緩ませた。


「ダイナも飲む?」

「クガッ?」


 クラリスが飲みかけのお茶を差し出したものだから、俺も思わずビクッとしてしまう。


 これって間接キスになるよな……?


「どうしたの? 飲まないの~?」


 ……そんなこと今さら気にしてもしょうがねえか。

 だって俺に対しては無頓着なクラリスだもん、あっちだってこれっぽっちも気にしないだろうよ。


 半分悟りを開いた感じで俺が湯呑みに口をつけて白仙茶をすすると、突然俺の身体にビリッ!と電流が走るような錯覚を覚えた。


「クガァ!?」

「わわっ、どうしたのダイナ! 身体が光ってるよ!?」


 え、そうなのか!?


 振り向いてみると俺の身体を覆う漆黒の装甲がまばゆく光っている。


【条件を満たしたことにより称号光輝の鎧ラスターアーマーを獲得しました】


 はあっ!? お茶飲んだだけで新しい称号かよ!?

 とりあえず見てみるか。


New光輝の鎧ラスターアーマー→輝く装甲をまといし者に授けられる称号。全属性に対する耐性獲得


 わお、これはなかなかに強力じゃね!?


「なんかすごいことになったねダイナ!」


 俺の心を知ってか知らずか、クラリスが手を合わせて同じように喜んでくれる。


 すると長老様が軽く咳払いをして切り出した。


「それでは本題に入ろうかの。我らが海の守り神オシアノス様であるが、暴走していたとは真か?」

「ああ、あれは間違いなく暴走だった」

「それにすごく苦しんでました。それとオシアノス様、殺してくれと懇願してました……」

「そうか……」


 アンナとクラリスの報告を受けて、長老様は重々しく唸る。


 それから長老様が断腸の思いであるかのように顔をしかめて言ったのは、思いもしない一言だった。


「お主らよ頼む、オシアノス様の魂を天に還してくれ」


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