翌朝俺は異様な外の喧騒に叩き起こされる。
「クカ……?」
窓際に飛び乗って町を見下ろしてみると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
どす黒く変色した海から魔物たちがあふれてる!
「クカッ! クカカ!!」
ベッドに戻った俺は、まだすやすやと寝ているクラリスとアンナのエルフ耳に噛みついて起こした。
「痛っ! もー、何するのダイナぁ」
「クカカ!!」
「そんなに慌てて何事だダイナ?」
寝ぼけ眼を擦りながらも二人が身体を起こすと、隣の部屋をとっていたソフィーまで駆けつける。
「大変です! 海が、海が!!」
「え、海?」
ただならない様子のソフィーを見たクラリスたちも外を見通すと、眠気も吹き飛んだのか目を見開いた。
「何あれ……! 本当に海なの……!?」
「とにかく外に出よう! このままでは町も危ない!」
慌ただしく部屋を飛び出すクラリスたち三人の後を追うように、俺も宿屋から外に出る。
すると大勢の人々が海から遠ざかるように押し寄せてきた。
「みんな落ち着いて! とにかく海から離れて!」
パニックに陥った群衆を誘導しようとしているのは、この町のギルマスであるビアンカさんだ。
押し寄せる群衆をかい潜りながら、クラリスたちがそんなビアンカさんの元に向かう。
「ビアンカさん!」
「一体何が起きているというのだ!?」
「分からないわ! けど、海から魔物があふれてるのは事実よ! ――お願い、海の魔物共を食い止めて!」
ビアンカさんの必死な頼みを、クラリスとアンナが断るはずもなかった。
「分かりました!」
「ここは私たちに任せてくれ!」
「頼んだわよ!」
ビアンカさんの頼みを受けて異変真っ只中の海へ急ぐクラリスとアンナ。
もちろん俺も一緒だぜ。
「待ってくださ~い! 自分もお供します!」
少し遅れてソフィーも追いついてくる。
「ソフィーちゃん! ……分かったよ、一緒にこの町を守ろう!」
「はい!」
「――来るぞ!」
海岸に駆けつけた俺たちを待っていたのは、サハギンとオクトロットをはじめとしたおびただしい数の海の魔物共だった。
「グウィイイイイイ!!」
「ブチブチュ~~!!」
海岸を埋め尽くさんばかりの魔物共に、俺たちは驚愕を隠せない。
「こんなにたくさんの魔物、見たことないよ~!」
「これは只事じゃないですね……!」
「関係ない、我々がやるべきは奴らを倒すことだけだ!」
「そうだね、アンナちゃん。ソフィーちゃんもいくよ!」
「はい!」
「クカアアアアア!!」
士気を高めたところで俺たちは、海の魔物軍団と対峙することになった。
「私とダイナが
「クカッ!」
アンナと俺で前衛を努めるんだな、やってやるぜ!
「オーケー! それじゃあいくよ、
「続けていくよ!
続いてクラリスが唱えたのは、雨嵐のように光線が降り注ぐ広範囲の攻撃魔法だった。
「グウィイイイイイ!?」
「ブチュルル!?」
降り注ぐ光線に次々と焼かれるサハギンとオクトロット共、だけど俺とアンナには当たっても痛くもかゆくもない。
「クカ?」
「不思議か、ダイナ? クラリスの
反撃を許すことなく目の前のサハギンを斬りながらナイス解説だぜ、アンナ。
なるほど、あの魔法にはそういう便利な追加効果もあるのね。
こっちはクラリスからの被弾を気にすることなく敵だけ次々と殲滅されていくわけだ。
クラリスの範囲魔法から逸れたサハギンやオクトロット共をこっちで取りこぼすことなく俺たちが敵陣を突っ切ろうとしたときだった、目の前に身体が赤くて一際ゴツいサハギンが立ちはだかる。
「ゴガアアアアアア!!」
「クケッ!?」
野太い雄叫びをあげてゴツい腕をがっしりと構える赤サハギン。
何だこいつはっ! 身体が大きいだけじゃなくて腕が異常に筋肉ムキムキだぞ!?
ひとまずこいつの情報を引き出そう、
個体名:――――
種族名:サハギン・マッチョ
レベル:39
体力:240/240
筋力:450
耐久:320
知力:60
抵抗:100
瞬発:180
サハギン・マッチョか、どうりでこんなムキムキマッチョなわけだ。
ステータスも見事にガチガチの物理系で、こいつは手強そうだぜ……。
「ダイナ! 済まないがそいつは頼む、こっちは手が放せない!」
そう伝えるアンナにはクラリスの魔法でも掃除しきれなかったサハギン共が押し寄せている。
「ゴルルルルル……!」
俺を見下ろしながら唸り声をあげるサハギン・マッチョ。
こいつは俺一人で立ち向かうしかなさそうだ。
「ゴガアアアアアア!!」
野太い雄叫びと共にサハギン・マッチョが豪腕を振り下ろす。
「クカッ!?」
それを俺はすんでのところでかわしたけど、振り下ろされた豪腕で砂が巻き上げられる。
慌てて目を閉じた途端に迫る殺気!
「ゴガアアアアアア!!」
サハギン・マッチョの右ストレートを紙一重でかわした俺は、ここでカウンターで反撃に応じる。
食らえ、
「ゴガ!?」
牙を白く光らせて右腕に噛みついた俺を、サハギン・マッチョが目を丸くしてにらみつける。
くっ、こいつ筋肉が尋常じゃなく固い!
鋼の筋肉に歯が立たない俺の小さな身体を、サハギン・マッチョが頭上から左腕で掴んだ。
「クガッ!?」
なんて握力だ、握られるだけであばら骨が折れちまいそうだぜ!
そのまま豪快にぶんまわされた後に俺は大きく投げ飛ばされてしまう。
「クカッ!」
砂浜をバウンドするように転げつつもすぐ体勢を立て直す俺に、サハギン・マッチョが巨体に似合わぬ瞬発力で一気に距離を詰めてきた。
「ゴガアアアアアア!!」
幸い繰り出される攻撃はどれも大振りだから、かわすのは容易い。
だけど反撃とばかりに噛みついても、奴の筋肉が固すぎてなかなかダメージが通らないぜ!
「ゴガアアアアアア!!」
さらに繰り出されるサハギン・マッチョの豪腕。
ここは一か八か、狙うは奴の顔面だ!
サハギン・マッチョの豪腕をかわした俺は、砂地を蹴って奴の顔面に飛び込む。
「ゴガ!?」
食らえ、
念じて雷電をまとった牙で、俺はサハギン・マッチョの顔面に食らいつく。
「ゴガガガガガ!?」
これにはさすがのサハギン・マッチョもたまらず尻餅をついた。
いくら筋肉ムキムキだろうが、顔までは筋肉で守られてはいまい!
これで終わりだ、
再び白く光らせた牙で、奴の顔を頭蓋骨もろとも噛み潰した。
【レベルが34に上がりました。サハギン・マッチョを撃破したことにより、称号