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第49話 海の守り神オシアノス

 再び水底を進みだした俺たちだけど、さっきから全然海の魔物が襲ってこない。


 一体どうしたんだろうか?


 俺の疑問を図らずも代弁してくれたのはアンナだった。


「あの大ダコを倒してから魔物の気配が消えた、どういうことだ?」

「恐らくは先ほどメガオクトロットを撃退したダイナさんを、海の魔物たちも恐れているのではないでしょうか?」

「なるほど、そういうことか」


 ソフィーの憶測に納得したアンナが俺に目配せをする。


 へへっ、大恐竜になった今の俺は無敵だからな!


「これならこの先安心だね! だってこうなったダイナはものすごく強いんだもん!!」


 誇らしげに腕をグッと構えて巨乳を揺らすクラリスにそう言われると、俺もなおさら嬉しいものだぜ。


 鼻高々になっていると、ソフィーが急に足を止める。


「あ、行き止まりだ~」

「ここですね。この先にオシアノス様がいらっしゃると言われています」


 そう言うが早いか、ソフィーが水底を蹴って浮上した。


「なるほどな」


 続いてアンナも軽やかに水底を蹴って浮上。


「アンナちゃん待ってよ~!」


 少し遅れてクラリスもちょっと不器用に水底を蹴る。


 じゃあ俺もだな。


 巨大化した足に力を込めて水底を蹴ると、巨体が一気に水面へ浮上する。


「プハーッ! さっきまで水の中だったのがウソみたいだよ~」


 どうやらクラリスたちはもう上陸してるみたいだ。


 俺も続こうとしたけど、不釣り合いに短い腕じゃうまく岸を掴めない!


「グルルル!」

「あれれ、ダイナ?」

「もしかして上陸できないのでしょうか……?」

「しかし困ったな、我々では今の巨大なダイナを引き上げられないぞ」


 困惑するクラリス三人たちの前で、俺は醜態を晒してしまう。


 くそぉ! まさかこの大恐竜にも弱点があったなんて!


 ……腕は短いけど、俺には強靭なあごがある!



 あごで岸に食らいついたところで、俺は巨体を引き上げることができた。


「おお~、ダイナすごーい!」

「さすがだな、ダイナ」


 へへん、どんなもんだい。


 クラリスたち美少女エルフ二人の称賛に誇らしくなった俺の前には、どこか既視感のある光景が広がっている。


 緑色に苔むした洞窟の壁に、背後でさざめく波。

 間違いない、夢で見た光景まんまだ。ということは!


「待ってくださいダイナさーん!」

「待てダイナ、そんなに先行するんじゃない!」

「待ってよダイナ~!」


 大股で先を歩く俺に、クラリスたち三人が慌ててついてくる。


 そして洞窟の奥で待っていたのは、どす黒いオーラをまとったあの巨大な亀だった。


「……オシアノス様、なのですか……!?」


 どす黒いオーラをまとう巨大な亀を前にし、口を押さえて絶句するソフィー。


「オシアノス、ということはあれが海の守り神なのか!」

「でもなんだか苦しそう……!」


 黒いオーラに埋め尽くされそうな巨大亀に、クラリスは胸を痛めているようだ。


 その時、洞窟内に地鳴りのような声が響き渡る。


「ソフィー……ナノカ……?」


「オシアノス様!」


 どうやらオシアノスのものらしい声に、ソフィーが反応した。


「オシアノス様、どうかなされたのですか!?」

「ウ……ソフィー……強キ者ヲ連レテキテクレタノダナ……! サア、我ヲ殺セ……早ク!」

「そんな、できません! オシアノス様を殺すなど……!」


「――モウ限界ダ……グアアアアアアア!!」


 オシアノスがうめき声をあげたのも束の間、その巨体を黒いオーラが埋め尽くす。


 そして姿を現したのは、ワニガメのように刺々しく凶悪な姿のオシアノスだった。


 ステータスを見ようとしたが、レベルが高すぎるのか詳しくは確認できず。


「グエエエエエエン!!」


「そんな……オシアノス様あああああ!!」


 力が抜けたように跪いたソフィーの叫びも、今のオシアノスには届かないだろう。


 そんなソフィーの前に立ったのは、アンナとクラリスだ。


「どうやら戦うしかないようだな……!」

「そんな! オシアノス様は……!」

「ここはわたしたちに任せて」


 そう言うなりクラリスが呪文を唱える。


束縛茨蔓ソーンバインド!」


 クラリスの魔法でにょきにょきと伸びた茨がオシアノスを絡めとったところを、俺とアンナが前進した。


「よくやった、クラリス!」

「今のうちだよ、二人とも!」

「グルウウウウ!!」


 俺とアンナが接近しようとしたところで、オシアノスが力ずくで魔法の茨を引きちぎる。


「きゃあっ!」


「クラリス!」


 魔法を破られたことで尻餅をついたクラリスに注意が逸れたアンナに、オシアノスが口から鉄砲水を放とうとした。


 させるか! 破砕咬牙クラッシュバイト!!


「グルルウウウン!!」


 白く光らせた牙でオシアノスの顔面に食らいつき、その口をふさぐ。


 だけどオシアノスはその巨体によるパワーで、俺のあごを振り払おうとする。


 離すかよ! 三色牙トライエレメンタルファングサンダー!!


 俺の牙を雷電がまとうことで、オシアノスを感電させることができた。


「すまない、ダイナ! 私もいくぞ、雷鳴斬刃ライトニングスラッシュ!!」


 同じくアンナが雷電をまとわせた剣での一閃が、オシアノスの左前肢を切り裂こうとする。


「くっ、固い!」


 だけどその鱗もかなりの固さなのか、アンナの斬撃でもびくともしない。


 それどころかオシアノスを激昂させてしまったみたいで、その身体にまとわれた渦潮に俺とアンナが巻き込まれてしまう。


「ゴボボ!?」

「クフゥ……っ!」


「アンナちゃーん!」


 渦潮に巻き込まれる俺たちの耳に届く、クラリスの声。


 渦潮が収まった頃には、オシアノスは次なる攻撃の手を下そうとしていた。

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