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第47話 水中散歩

 ソフィーに案内されて俺たちは改めて海岸の洞窟に向かった。


「海岸にこんな洞窟があったとは!」


 物々しく口を開ける洞窟に、アンナは目を丸くする。


 そういえばさっきは来てなかったっけな。


「皆さんを巻き込んでしまうのは本当に心苦しいのですが……」

「気にすることないよソフィーちゃん!」


 腕をグッと構えてヤル気満々なクラリスに、申し訳なさそうな態度だったソフィーも吹っ切れたようで。


「……分かりました。それでは改めてよろしくお願いします。こちらです、ついてきてください」


 ソフィーの後に続いて俺たちが洞窟の中に足を踏み入れると、意外な明るさに目を見張る。


「クカア」

「中は意外と明るいのだな」

「見てみて、苔が光ってるよ~?」


 クラリスが覗き込む先で、洞窟の壁にびっしりとこびりついた苔がぼんやりと光っているのが目に映った。


「ヒカリゴケです、この辺りだとこの洞窟でしか見られないものなんです」

「へ~、きれいだよねー」


 ヒカリゴケに目を奪われながら進むこと少し、俺たちは洞窟で煌めく水面みなもを発見。


「クカ?」


 試しに足でピシャピシャと水面を叩いてみると、その冷たさが全身に染み渡るようだ。


 同じく水に手を浸してペロリと味見したアンナが目を見開く。


「塩辛くない。これは真水なのか!」

「え、そうなの!? ――ホントだ、しょっぱくない!!」


 クラリスも手にすくった水を飲んでビックリしていた。


「オシアノス様はこの先にいらっしゃるはずです」

「しかしこの先は行き止まりじゃないか」

「ここから水の中を潜水していくんです」

「クカ!?」


 え、この中を泳ぐのか!?


「そんな、わたし泳いだことなんてないよ~!?」

「え、そうなんですか?」


 キョトンとするソフィーに、アンナが補足をする。


「ああ、恥ずかしながらエルフ族は潜水など縁のない暮らしをしていたからな……」

「そうなんですね。ですがご安心を、こんなことがあろうと水の中でも息ができる魔法があるんです」

「そうなのソフィーちゃん!?」


 目をキラキラさせるクラリスに手をひしっと握られて、ソフィーは少し戸惑っている様子だ。


「……だから近いです」

「――クラリスの距離感は我慢してくれ」

「分かりました。それでは魔法をおかけしますね。――水中適応ジェネレート・アクア


 ソフィーが唱えるや否や、俺たちの身体がぼんやりとした水色の光に包まれる。


「これで水の中でも呼吸ができます。それではついてきてください」


 きれいなフォームで水中に飛び込んだソフィーに続いて、俺たちも飛び込んだ。


「クカ」


 ホントだ、水の中でも息苦しくない!


「驚いたな、水の中でも問題なく呼吸ができるぞ」

「でも身体がフワフワして変な感じだよ~!」


 クラリスだけは慣れない水中で不器用にもがくばかり。


 程なくして水底に足がつくと、クラリスはほっと安堵の息をついた。


「ふー、これで一安心だよ~。そういえばダイナは水の中でも平気なの?」

「クカ?」


 おお、言われてみれば確かに水の中でも身体が自由に動くぜ。


 そういえばこの前サハギンを食ったときに、水中でも活動できるスキルを獲得したんだっけな。


 それから俺たちは水底を歩いて進むことにした。

 頭上には群れを成して泳ぐ小魚の姿もある。


「こんなところにもお魚っているんだね~」

「不思議なものだ、ここは海と繋がっているわけではないだろうに」

「これでもかなり数が少なくなったんです。それもオシアノス様に異変が起きてから……」


 そう説明するソフィーの顔は暗くて。


 そんな時だった、ソフィーのヒレ耳が何かに反応したのかピクピク動きだした。


「気をつけてください、何か来ます!」


 ソフィーがそう告げた途端、頭上からサハギンの群れがこっちに向かって泳いでくるのが目に飛び込む。


「え~、またサハギン!?」

「海の魚たちと入れ替わりにサハギンの数が増えているんです、ここは戦うしかないでしょう」


 断言するなりソフィーは懐から扇みたいなものを取り出した。


「それは?」

「水凪の扇、これが自分の武器です。少し見ててください」


 ソフィーが優雅に舞を踊ったかと思えば、彼女を中心に巻き起こる渦がサハギン共を巻き込む。


「グウィイイイ!?」

「水中ではこちらのものです、今です皆さん!」

「承知した、はあっ!」


 アンナが水底を蹴ると、普段よりもふわりと高く飛び上がれた。


音速剣戟ソニックブレード!」


 目にも止まらないアンナの剣捌きで、サハギン共が次々と切り刻まれていく。


種子爆弾ナットボム!」


 クラリスが放つ種がサハギン共をまとめて爆破していく。


 俺も負けちゃいられないぜ!


「クカア!!」


 水底を蹴ると、俺もすぐに頭上のサハギン共に肉薄する。


 食らえ、三色牙トライエレメンタルファングサンダー


 そう念じたときだった、俺の口で発生した雷電がバチバチと全身に迸った。


「クガガガ!?」


 うへ、こいつは文字通り痺れる!!

 どうりでアンナがいつもの雷鳴斬刃ライトニングスラッシュを使わないわけだ。


 水中ということで俺はあろうことか自分のスキルで感電してしまっていた。


「ダイナあ!?」


 よろよろと沈む俺を、クラリスが受け止めてくれる。


「大丈夫、ダイナ!? ――治癒施術ヒール!」


 クラリスの治癒魔法で、感電した俺の身体は瞬時に癒えた。


「クカア……」


 助かったぜクラリス……。


 結局俺だけ空回ってる間にアンナがサハギン共を全部倒してしまっていた。

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