「大変! 助けなくちゃ!」
「クカア!」
サハギン共に襲われる少女を助けにクラリスが杖を構えたところで、俺も早速前に出る。
食らえ、
「グウィイ!?」
雷電をまとった俺の牙でサハギンのうち一匹に噛みつくと、そいつは感電して倒れた。
「グウィイイイイイ!!」
槍を構えて怒りの雄叫びをあげるサハギンに、俺も吠える。
「クカアアアア!!」
「――
そこへクラリスが後方から魔法の茨を伸ばし、サハギン共を十体くらいまとめて絡み取った。
「グウィイ……!」
魔法の茨に絡みつかれたサハギン共はたちまち干からびたように萎びていく。
さすがクラリス、このくらいの数ならまとめて処理できるんだな。
サハギンを皆倒したところで、襲われていた少女にクラリスが駆け寄る。
「大丈夫!? 怪我はない?」
「……はい。おかげで自分は無事です、助けてくださりありがとうございます」
後からトコトコとついてきた俺は、少女のある特徴に目がいった。
こいつ、耳がヒレみたいになってる。
これで下半身が魚だったら人魚なんだが、そこは普通の人間ベースのようだ。
おまけに着ている服もどことなく巫女を思わせる感じ。
よし、ちょっと
ソフィー・マリノス
種族:マーフォーク
マーフォーク、いわゆるマーマンとかマーメイドみたいな感じの種族か?
そんなことを考えていたら、ソフィーという名の少女が自己紹介を始める。
「申し遅れました。自分はソフィー、海の巫女一族です」
やっぱり巫女だった!
「わたしはクラリス、エルフだよ。こっちが使い魔のダイナ」
「使い魔、ですか」
クラリスの紹介で、ソフィーの目が俺に向かう。
「クカ?」
「……可愛い子ですね」
「でしょ~? それであなたはどうしてこんなところに?」
「はい、実はこの洞窟の奥へ行こうとしたところをサハギンに襲われてしまいまして……」
「そうだったんだ……。そうだ、ソフィーちゃん怪我してるよ。魔法で治してあげる、――
クラリスが手をかざすと、優しい光でソフィーの傷が瞬時に癒えた。
「怪我まで治していただけるなんて、自分何とお礼をすれば……!」
「気にしなくても大丈夫だよ~。それよりこんなところじゃあれだから、ちょっと来てくれないかな?」
「分かりました」
こうして俺たちは、出会ったソフィーを一旦宿に連れていくことに。
海岸から港町に戻ると、辺りがなぜかざわついている。
「どうしたのでしょうか……?」
「あっちに人が集まってるよ。行ってみよう」
「クカッ」
人混みをかき分けて奥に進むと、そこには柄の悪い男を足で踏みつけるアンナの姿があった。
「あー、そこっ。そこもっと踏んでほしいっす~!」
「はあ、まだ踏まれたいというのか。懲りない奴め」
ゴミを見るような目を向けるアンナにヒールの靴で踏まれる男はどこか恍惚としていて。
うわあ、こいつはマゾヒストだ。俺も初めて見るぜ。
「ちょっとアンナちゃん! 何やってるの!?」
「クラリス、どこへ行ってたかと思えば。お前を探してたらこの男に絡まれてな、少し懲らしめたと思えばこの有り様だ。――それよりそいつは何者だ?」
「それよりもまずはここを離れようよ。みんな見てるよ~?」
クラリスの指摘で、アンナは男を蹴り飛ばしてこちらに戻ってきた。
「すまない。野暮用にかまけてる場合ではなかったな。クラリスも戻ってきたことだし、とりあえず宿に戻ろう」
アンナが合流したところで、俺たちは宿に戻ってひとまず自己紹介を交わした。
「海の巫女一族か、聞いたことないな」
「あまり他種族と交流がないですからね……」
「それでさっきの話、もっと詳しく聞かせてほしいな」
クラリスの提案で、ソフィーは詳細を話し始める。
「実は近頃この海で異常が起きてると、長老様に命じられて洞窟の奥にいらっしゃる守り神オシアノス様の元へ行こうとしていたのです」
「海の異常、魔物の活性化のことか?」
「おそらくそうです、アンナさん。それでサハギンに襲われていたところを、先程はクラリスさんとダイナさんが助けてくださったんです」
「なるほど、そういうことか。だがクラリス、お前はなぜそこに?」
「あのねアンナちゃん、実はダイナがそこに連れてってくれたんだ」
「ダイナが、か?」
クラリスの説明でアンナの目が俺に向いた。
「クカ?」
「ううむ。何かを感じ取ったのだろうが、やはりお前はまだ分からないことが多いな」
「そんなことは置いといて。ソフィーちゃん、わたしたちもその洞窟の奥に連れていってくれないかなあ?」
「クラリスさんたちをですか?」
クラリスの提案に、ソフィーがサファイアのように青い目を丸くする。
「うん! もしそれが海の異常に繋がってるなら、わたしも力になりたい!」
「しかし部外者を我々海の巫女一族の問題に巻き込むわけには……クラリスさん近いです」
「こうなったらクラリスは頑固だぞ?」
苦笑するアンナの言葉に、ソフィーは折れた。
「分かりました。それではこちらこそ力を貸してください」
「もちろんだよ!」
「私にも異論はない」
どうやらソフィーを助ける方針で話がまとまったみたいだな。