「クカ?」
「調査だと?」
揃って頭にはてなマークを浮かべる俺とアンナに、クラリスは真剣な目で説明を始める。
「そう! あんなに素敵な海なんだもん、みんなが安心して来られる場所にしなきゃだよ! それにはやっぱり元凶を断たなきゃだとわたしは思うの」
「なるほど、一理あるな。しかし当てはあるのか、クラリス?」
「え、当て……?」
アンナの問いかけで目を点にするクラリス。
その様子だとないみたいだな……。
「と、とにかく! 明日の朝方また海岸に行こうよ! もしかしたら魔物が教えてくれるかもしれない!」
「……お前なあ。とはいえ私たちにできることはそれくらいか……」
根拠のないクラリスの自信にアンナがジト目を向けたところで、俺は簡素なベッドに飛び乗って目を閉じる。
今日は朝から魔物を倒したり海で遊んだりで疲れたぜ。
翌朝起きるとクラリスがもう着替えて準備をしていた。
「あ、ダイナおはよー。もう起きたんだね」
「クカッ」
にっこり笑顔を見せたクラリスに、俺は一声鳴いて応える。
その時だった、突然俺の頭に何か映像みたいなのが流れてきたのは。
――緑色に苔むした洞窟の壁と背後でさざめく波の音、こいつは昨日見た夢と同じだ。
その奥でどす黒いオーラをまとい、うずくまってうめき声を漏らす巨大な亀。
――グググ……苦しい……
こいつは亀の声、なのか?
おい、どうしたんだよ! なんでそんなに苦しんでるんだ!?
俺の思いに応えるかのように、巨大な亀は地響きのような声をあげる。
――モウ……限界ガ近イ……殺シテ……クレ……!
そう伝える亀の目は、ドロリとした涙で滲んでいた。
その直後、景色がフェードアウトして洞窟の入り口がぽっかりと口を開けているのが目に飛び込む。
この洞窟、ここから意外と近いぞ!?
「クカア!」
いてもたってもいられなくなった俺は、すぐさま宿屋の部屋を抜けて突っ走った。
「ちょっとダイナ!? 待ってよ~!」
階段を駆け下りた俺だけど、宿屋の出口となる扉が閉じててこれ以上進めなくなってしまう。
部屋の扉は開いてたけど、こっちは閉まってるか!
背伸びをして扉の取っ手に顔を伸ばそうとするけど、ギリギリ届かない。
くそっ、もどかしいぜ!
「あーっ、ダイナいたあ! んもー、どうしたのいきなり?」
そうだクラリス、この扉を開けてくれよ!
そんな願いを込めて向けた眼差しも虚しく、俺はクラリスに抱き上げられてしまう。
「もー、ダメだよ急に飛び出したら~」
「クガ! クゲゲ!!」
だけど俺はなぜだか焦燥に刈られてジタバタと暴れて、クラリスから抜け出した。
「あっ、ダイナ!?」
「――どうしたんだい? こんな朝早くから」
寝ぼけ眼を擦りながらやってきたのは、恰幅のいいおじさん。
この声は確か宿の主人か。
そういえばこの人と面と向かって会うのは初めてだぜ。
「……この子は君の使い魔かい?」
「そうだよ。あ、ごめんなさい! 使い間がいるなら事前に伝えておかなくちゃだったよね!?」
今さらながら慌てふためくクラリスに、宿の主人は豪快に笑ってのけた。
「あっはっは、私はそんな小さなこと気にしないさ!」
「そっか、良かった……!」
ホッと大きな胸を撫で下ろしたクラリスに、宿の主人はこんなことを伝える。
「それよりも嬢ちゃん、その使い魔落ち着かない様子に見えるけど?」
「うん。朝起きてからこんな調子なんだ」
「もしかしたら外に出たいのではないかい?」
「え、そうなのダイナ?」
目を丸くしたクラリスに、俺は向き直ってこくんとうなづいた。
それから宿の主人が扉を開けてくれたので、俺は再び勘に身を任せて駆け出す。
「えー!? 待ってよダイナ~!!」
「ははは! 気をつけるんだぞ~!」
快活に笑う宿の主人に見送られて、俺は夜が明けて間もない港町を突っ走る。
そうして俺は海岸の外れで口を開ける洞窟の前にたどり着いた。
ここか、頭の中で流れた映像通りだぜ。
「はあ、はあ、待ってよダイナ~」
少し遅れてクラリスがたわわなおっぱいをたゆんと揺らしながら追いついてくる。
「ここは?」
目をパチクリさせるクラリスをよそに、俺は洞窟の中に足を踏み入れた。
「ダイナ、待って~」
クラリスに呼び止められたその時だった、俺の
この反応はサハギン、ともう一つは何だ?
早足で向かうと、そこには複数のサハギンに襲われる少女の姿があった。