「これでサハギンをやっつけたんだよね?」
「ううむ、これに懲りてくれるといいのだが」
サハギンが逃げていった波打ち際を前に、クラリスとアンナは怪訝そうな顔。
そうかと思えばアンナが、遺されたサハギンの亡骸からヒレを切り取り始めた。
「一応討伐の証明として取れるものは取っておこう」
「はーい。あ、ヒレを取ったら食べていいよダイナ」
クラリスからお許しをもらったところで、俺はサハギンの亡骸を食うことにする。
そりゃあちゃんと調理したものの方が美味いに決まってるんだけど、魔物の生肉ってだけで食欲が突き動かされるんだ。
夢中で貪って半分くらいまで食べ尽くしたところで、いつものアナウンスが流れる。
【レベルが30に上がりました。サハギンを捕食したことによりスキル
おお、久々のかっ飛びレベルアップだぜ!
しかも新しいスキルまで獲得してる。
早速見てみよう。
【
なるほど、もともとサハギンに備わってたスキルだから水中活動に特化したものになってるのか。
こいつは海で便利なスキルになりそうだぜ。
それからもう半分のサハギンを平らげたらレベルが32になった。
レベルが上がれば上がるほど必要な経験値も多くなるからな、前のレベルと同じようにはいかないのかも。
ふと俺の
「クカ?」
海の方だ、ハッキリとしないけど向こうで大きな反応を感じるぜ。
この感じ、似てる……夢で見たのと何か関係があるのか……?
「おーい、どうしたのダイナ?」
「クカッ」
クラリスに軽く揺さぶられたところで我に返ると、謎の反応は忽然と消えていた。
静けさを取り戻した波打ち際を、俺はただ眺めることしかできなくて。
何だったんだろう……?
それから俺たちは海の家もといナギサのギルドへ報告しに戻る。
「これはサハギンのヒレね。こんなにたくさん仕留めたなんて!」
目を丸くするギルマスのビアンカさんに対して、アンナは苦々しく報告をした。
「しかしまだ全部ではない、私としたことがほんの少しを逃がしてしまった……!」
悔しそうにギリリと歯を噛みしめるアンナの肩に、クラリスが手を添えてフォローをいれる。
「大丈夫だよアンナちゃん。あれだけやっつければサハギンたちももうやってこないって」
「だといいんだが……」
「とりあえず討伐分の報酬は出しておくわ。だけどもう少しだけ手伝ってもらえるかしら? なんか胸騒ぎがするの」
大胆に露出した胸元をぎゅっと握りしめてそう頼むビアンカさん。
胸騒ぎ、か。あの人も何か感じるものがあるんだろうか?
「ああ、私たちでよければ力になる」
「任せてください!」
「頼りになるわ、二人とも。それに引き換えうちの冒険者たちは……」
ため息をつくビアンカさんの言葉に、クラリスがエルフ耳をぴくっと動かして反応する。
「そういえばここってギルドなのに全然人がいないですね?」
「そうなのよクラリスちゃん。実はうちの冒険者たちには海岸の調査をしてもらっていたのだけれど、まだ一人も帰ってこないの」
「そうなんですか!?」
すっとんきょうな声をあげて驚くクラリスに、ビアンカさんは重々しくうなづいた。
「誰一人帰ってこないのよ、さすがに変だと思わない……?」
「じゃあわたしたちにも海岸の調査を……」
「あんたたちには海の魔物が出没次第討伐してもらうわ。それが依頼内容だもの、余計な手間はかけさせられないわ」
「そんな! わたしたちなら力になれる……」
「――ビアンカさんの言う通りだ、クラリス。ひとまずギルマスの彼女に従おう」
冷静なアンナの判断に、クラリスは戸惑いを隠せない。
「アンナちゃん! アンナちゃんはそれでいいの!?」
「落ち着けクラリス! 私たちは冒険者だ、依頼以上の事をする義理はない。そうだろう、ビアンカさん」
「アンナちゃんは分かってるみたいね。そういうこと、だからあんたたちにはこのまま海の魔物を討伐してもらうことにする。いいわねクラリスちゃん?」
「は、はい……」
ビアンカさんの判断にクラリスは渋々首を縦に振る。
「クカァ……」
しょげた様子のクラリスを、俺はただ見つめることしかできなくて。
くそ、こんなときに何か言ってやることができればいいのに!
そんな焦燥を抱いていたとき、ビアンカさんが手をパンと叩いてこんなことを提案してきた。
「その代わりと言っては難だけど、とっておきの場所を紹介するわ」
「「とっておきの場所?」」
「ええ。一時的とはいえサハギンを退けたんだもの、アラナギ海岸で海水浴はしなきゃ損よ? ――ついてきて」
そう告げたビアンカさんがクラリスたちを連れてったのは、薄い布切れのような衣類が陳列する売り場。
ワンピースタイプにビキニタイプ、あれはまさか水着か!?