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第40話 海の魔物サハギン


 しばらく待ってるとクラリスたちが食事から戻ってくる。


「ダイナ~、お裾分けだよー」


 クラリスが皿に出してくれたのは、何かを揚げたようなもの。


 この匂いからして白身魚か?


 早速一口食べてみると、香ばしい衣の中に淡白な味わいが口腔にじんわりと広がる。


 こいつは美味いや! そういえばこの世界で魚なんて食うの初めてだぜ。


 夢中でがっつく俺を、クラリスは微笑ましそうに見つめていた。


「はは、美味しいんだね~。分かるよ、この宿のお魚料理すっごく美味しいもんね!」

「クカァ!」


 そんなクラリスの顔をよそに、アンナは暗くなってきた空を窓から見通している。


「暗くなってきたな。夜の海は危険だという、討伐は明日の朝からにしよう」

「そうだね。今日はもう寝よっか」


 そうしてクラリスたちが寝間着に着替えてベッドで横になるのを見届けて、俺も二人の間に入った。


「ダイナも明日から頑張ろうね」

「クカッ」


 小さな俺を抱き寄せてクラリスはすやすやと寝息をたて始める。


 ちょっと早いけど俺ももう寝よっかな。


 降りてくる睡魔に身を任せて、俺も眠りに落ちるのだった。



 ――気がつくと俺は見知らぬ洞窟の中に立っていた。


 背後には青く煌めく水面、洞窟の壁には緑色の苔みたいなものが繁茂している。


――苦シイ……


 ん、何だ今の声は?


――助ケテ……クレ……


 誰かが助けを求めてるのか?


 不思議に思っていると、どす黒いオーラをまとった巨大なモノがおもむろに歩いてくるのが見えた。


「グルルルルル……」


 何だこいつは……!?


 デカい亀のようにも見えるけど、その割にはシルエットが刺々しいぞ。


「グエエエエエエエエン!!」


 そいつが咆哮を轟かせると、俺の小さな身体はたちまちどこからか湧き出した渦潮に飲み込まれてしまう。


 ゴボボ! 何だよ一体!?


 渦潮に飲み込まれようとした時、俺の意識は覚醒した。



「クカァ!?」


 飛び起きた俺は、昨日の夜と同じくベッドの上で立っている。


 さっきまでのは夢だったのか。それにしてはずいぶんリアルだったけど……。


 隣を見てみるとクラリスの姿はもうなくて、少し離れたところで着替えているのが目についた。


 ちょうど着替え終わるタイミングでちょっと残念、なんていつもみたいに考える余裕は俺になくて。


「あ、ダイナ。起きたんだね」

「ハァ、ハァ……」

「どうしたの? 昨日はずいぶんうなされてたみたいだったけど……」

「……クカ」


 どうやら俺はクラリスに心配をかけていたみたいだ。


 さりげなく顔をすり寄せると、クラリスはそんな俺を優しくなでてくれる。


「怖かったんだね。よしよし」

「クルル……」


 ベッドに腰かけてなでるクラリスのそばで、俺は気持ちよく喉を鳴らした。


「そうだ、アンナちゃんも起こさなくっちゃ。――それっ」


 それからクラリスは間髪いれず、アンナの寝顔を自分の巨乳でふさぐ。


「むごご!? ――なんだ、またお前の胸か……」

「もー、いい加減自分で起きようよ~」

「クラリスが早起き過ぎるんだ」


 ぶつくさ文句を垂れるアンナを、クラリスが手際よく着替えさせた。


「ほら、これから海の魔物をやっつけにいくんでしょ?」


 そう確認しながらクラリスがアンナに剣を手渡す。


「そうだな、いつまでもぼんやりしていられまい」


 剣を受け取るなり、アンナの顔が精悍なものに引き締まった。


 よし、アンナも準備が整ったみたいだな。


 俺もクラリスに防具を着せてもらったところで、俺たちは宿を出て問題のアラナギ海岸に向かうことに。


 まだ人気ひとけのまばらな港町から海岸に出ると、穏やかな潮騒を奏でる波打ち際が見えてくる。


「あれが海か」

「海ってしょっぱいらしいけど、ほんとかなあ?」


 初めて見るっぽい海に興味津々なエルフ二人をよそに、俺の生命感知ライフセンサーが早くも敵の気配を捉えた。


「クルルルルル……!」

「ダイナ、どうしたの!?」

「どうやら早速お出ましのようだな……!」


 アンナが剣に手を掛けたと同時に、波打ち際から手足の生えた魚――それも鋭い牙を持つピラニアっぽい――みたいな奴が次々と上陸してくる。


個体名:――

種族:サハギン

レベル:15

体力:100/100

筋力:180

耐久:150

知力:120

抵抗:140

瞬発:100


「サハギンか! しかしすごい数だ……!」


 サハギンって、半魚人みたいなモンスターのことだよな。


 ギリリと歯を噛み締めるアンナの言うとおり、上陸してきたサハギンだけで二百は下らなそうだぜ。


「グウィイイイイイイ!!」


 俺たちを見るなり、サハギン共が手にした銛のような武器を振りかざして突撃してきた!


「ここは任せて! 束縛茨蔓ソーンバインド!」


 クラリスが唱えるなり、魔法の茨がサハギン共をまとめて叩き飛ばした。


「グウィイ!?」


「グウィイイイイイイ!!」


 だけどサハギン共の大多数はクラリスの茨をすり抜けてこっちに接近してくる。


「ふえええ!? わたしの魔法が~!」

「あれだけの数だ、クラリスの魔法でも全てをあしらうのは無理だろう」


 そう言うが早いか、アンナが砂浜の地面を蹴って前に出た。


「接近してくるサハギンは私が引き受ける! 雷鳴斬刃ライトニングスラッシュ!」


 アンナが雷電をまとった剣で斬りつけると、サハギンはビリビリと感電してたちまち動かなくなる。


 なるほど、奴らには雷属性がよく効くのか。それなら!


「クカア!」


 俺もアンナの後に続いてサハギン共に突っ込む。


「ダイナ!」


 後ろでクラリスの叫びが届くけど、そんなのを気にすることもない。


「グウィイイイイイイ!!」


 サハギンが突き出してきた銛に噛みついた俺は、すぐにスキルを使う。


 三色牙トライエレメンタルファングサンダー


「グギギギギ!?」


 思った通り俺の牙で帯電する雷電が銛を伝ってサハギンを感電させた。


「グウィイイイイイイ!!」


「ダイナ、後ろ!」


 分かってるよクラリス!


 後ろから攻撃を仕掛けようとしたサハギン共を、俺は打撃竜尾ストライクテールで迎撃する。


 おらおらあ! まだまだ暴れ足りねえぜ!!


 自分でもビックリするくらい高揚している闘志に任せて、俺はひたすら暴れまくった。


「グギギギギ!?」

「グギュイ!?」


 サハギンに食らいついては肉を食いちぎり、尻尾ではね飛ばし、少し離れた相手には投擲石礫スリングストーン火炎息吹ファイヤーブレスをお見舞いする。


 そうして気がつくとサハギンの九割くらいを倒して、残りの一割が海に撤退していた。

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