あれから三日が経って、俺たちも新居での生活に馴染んできた。
この屋敷すげー住み心地が良くて、クラリスたちもゆったりとリラックスしている。
広い屋敷の中をトコトコと探検してると、窓を拭いているプラムの姿を見つけた。
「……あ、おはようございます……ダイナ様……」
「クカッ」
そういえばあいつとだけまだ打ち解けてないんだよな~。
おどおどした様子のプラムを驚かさないように、俺は尻尾をフリフリして愛嬌を見せる。
すると今回は興味ありげに歩み寄ってきた。
「あ、あの……っ、ちょっとお触りしてもいいですか……?」
「クカカ」
ああ、いいぜ。
俺が下げた頭に、プラムは恐る恐る手を置いた。
「……ちょっと……固い、ですね」
「クルルル」
そう言いつつプラムが優しくなでてくれるものだから、俺も気持ち良くて喉を鳴らす。
「……可愛い、です。……プラムもようやく、ダイナ様と仲良くなれそうです……」
おう、そいつは良かったぜ。
プラムに構ってもらった後に俺が部屋に戻ると、クラリスが一人で窓から庭を眺めていた。
「ふふ、やっぱりきれいなお庭~」
そうやって微笑むクラリスもきれいだぜ。
そんなベタすぎる感想を抱きつつ、俺はベッドに座るクラリスの膝に飛び乗った。
ああ、クラリスの膝も柔らかくて暖かいからうっとりしてしまう。
「クカッ」
「お帰りダイナ。楽しかった?」
「クカア」
ニコニコしながら背中をなでてくれるクラリスに、俺はすっかり身体を預けている。
やっぱりクラリスの手でなでられるとサラサラスベスベで気持ちいいぜ。
俺も窓を覗いてみると、眼下で今日も素振りに励むアンナの姿があった。
「ふっ、はっ!」
この前も思ったけど、アンナの剣裁きは見事だと思う。
まるで伝統的な舞を踊っているようだ。
そんなアンナが俺とクラリスに気づいたのか、こっちに向けて手を振ってくれる。
それを見たクラリスもニッコリ笑顔で手を振り返す。
やっぱりいいコンビだよなー、この二人。
少ししてアンナが部屋に戻るなり、こんなことを言い出した。
「クラリス、これから久々にギルドへ行かないか?」
「え、でもお金はまだあるよ~」
キョトンとした顔のクラリスに、アンナはグリングリンと腕を回して意見を言う。
「お金があるのは分かってる。だが今のままだと身体や感が
「そっか。それじゃあ行ってみよっか」
「ああ」
クラリスも外出の準備をするところを、俺も彼女の足元にすり寄る。
「もちろんダイナも来るよね~?」
「クカッ!」
こうして俺たちは数日ぶりにギルドに顔を出すことにした。
そうそう、冒険者共のむさい空気で一杯のこの感じ。久しぶりだぜ。
クラリスとアンナの二人が入るなり、迎えたのはオネエギルマスのシュワルトさん。
「あら、久しぶりじゃない! 新しいお家を買ったって聞いたけど、どう?」
「ギルマスさん! はい、とっても心地が良くて夢みたいですよ~」
「あんまり住み心地が良すぎて、ここに来るのもつい忘れてしまっていた」
二人の感想を聞いて、シュワルトさんは化粧の濃い顔で柔和に微笑んだ。
「あら、それは良かったじゃな~い。それで、久しぶりのギルドで依頼を探しに来たのかしら?」
シュワルトの問いにああ、と答えてからアンナが訊ね返す。
「しばらく安寧にかまけて身体が鈍ってるだろうからな、手応えのある依頼があるといいんだが」
「そんな依頼が見つかるといいわね。掲示板を見てらっしゃい、きっといいのがあるはずよ」
「ありがとうギルマス」
「それじゃあ探しに行ってくるね~」
シュワルトさんと話し終えた二人に俺もついていくと、掲示板は相変わらず依頼の張り紙で埋め尽くされていた。
「えーと、どれがいいかな~」
「ううむ、Bランクになって選択肢が一気に増えたものだから迷うな……」
二人してどの依頼を受けるか迷っていたとき、背後から受付嬢のリコッタさんが声をかけてきた。
「クラリス様にアンナ様、お久しぶりですね」
「あ、リコッタさん! お久しぶり~」
手を上げてフランクに挨拶するクラリスに、リコッタさんは営業スマイルで手を振ってから、ある依頼を指し示す。
「ちょうど今来たばかりのオススメ依頼があるんですよ。いかがでしょうか?」
リコッタさんのおすすめする依頼書には、波を立てる海のイラストが描かれていた。
「ふむふむ、アラナギ海岸での討伐依頼か」
「はい。なんでも海岸を管理する地元のギルドが海の魔物の増加で困ってるみたいなんです。といってもBランクになったお二人なら、苦もなく倒せる相手ばかりだと思いますよ」
「海かー、わたし行ってみたいな~」
「遊びに行くんじゃないんだぞ、クラリス。
のほほんとそんなことを言うクラリスをたしなめつつ、アンナも報酬を見てうなづく。
「――とはいえ報酬も悪くない依頼だ、受けてみようじゃないか」
「ありがとうございます。それではこの依頼を受理させていただきますね」
海といえばいろんなイベントがあるからな、俺も楽しみだぜ!
まだ見ぬ異世界の海に、俺も胸をときめかせるのだった。