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第34話 白い新居

 あの後クラリスたちはロスマンの不動産屋に足を運び、新しい住居を選ぶことになった。


 ちなみに俺はいつも通りクラリスのバッグから顔を出して待機している。


「うわ~! なんかどれもすっごく素敵で選べないよ~!」

「しかもあの報酬があればどれも手が届く、これは迷うな……」


 不動産のカタログとにらめっこしながら選択を悩む二人に、ロスマンは別のカタログを提示した。


「もしよろしければこちらの不動産もいかがでしょうか? 今までお見せしたものと比べて少し古くなってますが、手入れをすれば十分住居として使えるかと」


 ロスマンが紹介したのは、全体的に白を基調とした感じの屋敷。


「おお~、これすっごくいい! アンナちゃんはどう思う!?」

「少し街からは離れているが、それを差し引いてもかなり値ごろで悪くない。この屋敷を見学することはできるか? ロスマン」

「どうやらお気に召していただけましたかな? はい、もちろん見学もしていただく予定でございます。専門の使用人に三日でメンテナンスをさせていただきますので、それからでよろしいですかな?」

「もちろんだ」

「わーい、楽しみだね~!」


 そうしてクラリスたちは三日後、例の白い屋敷を見学することに。


「こちらが屋敷になります」


「「おお……!」」


 街の外れの小高い丘に位置するその屋敷は、イラスト以上に立派できれいなものだった。


「クカア!」


 思わず俺もバッグから飛び出して屋敷を囲む芝の上を駆け回り、それから寝そべってみる。


 こいつは気持ちいい芝だぜ!


「あはは、ダイナ気持ち良さそ~」

「この芝を始めとした屋敷全てを手入れするメイドもこちらで紹介させていただきます」

「それは助かる。これだけ大きい屋敷だと私たちでは管理しきれないからな」

「アンナちゃんは掃除も大の苦手だもんね~」

「そ、それは今言うことではないだろ!?」


 顔を赤くして怒るアンナだったけど、クラリスとにらめっこしてお互い吹き出してしまう。


 あの二人、本当に仲がいいよな。

 俺もあの中に入れてるといいんだけど。


「それでは中もお見せしましょうか」


 ロスマンがクラリスたち二人を屋敷の中に連れていくものだから、俺も慌てて追いかける。


 外観に違わず屋敷の内装も立派なもので、クラリスたちも気に入ったようだった。


 そうして二人はこの屋敷を買い取ることにしたのだ。


 一旦この場を離れたロスマンが少しして連れてきたのは、メイド服のような衣装を着た三人の女性。


「こちらが当不動産が紹介いたしますメイドの方々です」

「メリッサですわ」

「ハクナよ」

「……ぷ、プラム……です」


 どうやら一番年長の女性がメリッサで、真ん中の一番背が高い女性がハクナ、最年少でおどおどしてるのがプラムのようだ。


「この広い屋敷の管理をお二人でするのも大変でしょう。ということで彼女たちを雇ってみてはいかがでしょうか?」

「「「どうかよろしくお願いします、ご主人様」」」


 三人揃って――プラムだけ動作のキレがほんの少し悪かった――スカートの裾をつまんで挨拶する使用人たちに、クラリスはオロオロと取り乱す。


「ごごご、ご主人様だなんてそんな! わたしそんな風に呼ばれるなんて慣れてないよ~!」

「お気になさらずともよいですわ、クラリス様。今後とも私たちを何なりとお使いくださいませ」

「ふええ~!?」

「助かる。よし、お前たちをメイドとして雇おう」


 戸惑うクラリスをよそに、アンナは早速三人の使用人とそれぞれ握手を交わした。


 それじゃあ俺からも挨拶しとかねえとな。


「クカッ」


 俺が小さな身体でトコトコ歩み寄ると、最年少のプラムがすごい勢いで後退りする。


「ひ、ひいいっ!?」

「プラム、魔物といえどご主人様の家族にそのような態度はいけませんわよ」

「……で、でも……」


 メリッサさんにたしなめられてなお俺にビビるプラムの前で、ハクナさんが俺の頭をなでてくれた。


「でも、じゃないわ。ほら、こんなに可愛いじゃないこの子」

「は、はい……」


 まだ及び腰なプラムにも俺は歩み寄って、頭を下げて尻尾をフリフリして愛嬌を振りまいてみる。


「か、噛みませんよね……?」

「クカ?」


 恐る恐るプラムが俺の頭に手を添えようとするけど、こっちがちょっと振り向いただけでその手を慌てて引っ込めてしまう。


「ひいっ!」


 そんな様子を見かねたのか、俺を抱き上げたクラリスがプラムにこう伝えた。


「焦らなくてもいいんだよ、プラムちゃん。ダイナはこんなにお利口さんなんだもん」

「は、はあ……」


 どうやらプラムが俺に打ち解けてくれるには、まだ時間が必要みたいだな……。


 そんなこんなで俺たちは新しい家を手に入れたのだった。

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