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第33話 身に余る代価

 半日かけて町に帰った俺たちは、まずギルドにレッドドラゴンの角を提出する。


「これがレッドドラゴン討伐の証、ですね。かしこまりましたマルス様。それでは念のため鑑定させていただきますね」


 受付嬢のリコッタさんたちが赤いレッドドラゴンの角を協力して奥に運ぶと、クラリスが心配の声をあげた。


「大丈夫かな……これで依頼達成になるよね……?」

「心配はいらないさ。僕たちは確かにレッドドラゴンを倒したんだからね」

「マルスがそういうなら大丈夫ニャよ、クラリスちゃん」


 マルスの意見を後押しするチャオが、クラリスの肩に手を置く。


「それにしてもすごかったっすね、あのダイナきゅん」

「クカカッ」


 だろ? すごいだろサラ。


 クラリスのバッグから顔を出した俺は、誇りを持って鼻息を鳴らす。


「しかしあれは何だったのだ? あのようなドラゴン、我輩は見たことがないぞ」

「それが私たちにも分からないんだ。リトルドラゴンの一種だと思っていたのだが……」


 首を重々しくかしげるロックに、アンナは困ったような顔して肩をすくめた。


 そんなことをみんなが話してるうちに、リコッタさんが受付に戻ってくる。


「お待たせしました。確かにレッドドラゴンの痕跡だと、鑑定の結果判明しました。これにて依頼達成です、本当にお疲れ様でした!」


 ニコニコしながらスタンプをみんなのカードに添えた後にリコッタさんが受付に上げたのは、見るからにコインがぎっしりと詰まったような大きい布袋。


「ふえええ~! これ全部金貨だよ~!?」

「なんだって!?」


 クラリスとアンナが驚くのも無理はない、袋の中身は全て金貨だったんだ。


 この世界の貨幣価値がよく分からないけど、クラリスたちの反応からして金貨はとんでもなく価値が高いことくらいはうかがえる。


 それからみんなで大量の金貨を山分けすることになったんだけど、クラリスとアンナの二人に報酬の八割が割り振られることに。


「ちょっと待て、金貨をこんなに受け取れるか!」

「そうだよマルスさん! わたしたちがこんなにもらったら悪いよ~!」


 恐れ多く割り振りに異を唱えるアンナとクラリスに、発案者のマルスがこう言った。


「今回一番貢献したのは誰だと思うかい? ――ダイナだろ? それならダイナの主人である二人にこの報酬の大部分を手にする権利があると僕は思う」

「我輩も異論はない」

「ミーも賛成ニャ!」


 太鼓判を押すマルスたちだけど、クラリスとアンナはまだ金貨を受け取るのをためらっている。


「でも……」

「しかし……」


 あーもう、ウジウジしても後味が悪いぜ!


 たまらず飛び出すと、俺はクラリスたちの取り分をくわえあげた。


「ちょっと、ダイナ!?」

「クカア!」

「――どうやらこいつを受け取るしかなさそうだな」


 へへ、そういうことだっ。


 こうしてマルスたちと討伐隊を解散した俺たちは、約束通り唸るほどの大金を手に入れたのだった。


 これでしばらくはお金に困らない、そう思っていた俺だけど、そうは問屋が卸さないようで。


「――どうする? こんな大金わたしたちじゃ使いきれないよ~!」

「こんなに金貨があっても私たちの身に余るぞ」


 ギルドの席にデン!と置かれた金貨の袋とにらめっこをするクラリスとアンナ。


 こんな大金を外に出して盗られないものかと心配になったけど、意外とその心配はなかった。


 レッドドラゴンという怪物を倒したなんて情報がすぐさま広まって、誰もクラリスたち二人に手を出せないのだ。


 みんなこの二人には敵わないって分かってるんだろう。


 そんなこととはつゆ知らず大金の使い道に困り果てている二人に、声をかけたのはつるっぱげで樽のような腹をした初老の男だった。


「やあやあ、お困りですかなお嬢さん?」

「誰だ」


 突然現れた男に対して警戒心を露わにするアンナ。


 この前の失敗もあるからな、アンナも今まで以上に用心深くなってるんだろう。


「おやおや、そんな怖い目をなさらずともよろしいですぞ。私はロスマン、しがない不動産屋でございまする」

「アンナだ。こっちは連れのクラリス」


 自己紹介を交わしたところでロスマンなる男が、懐から名刺のようなものを取り出してアンナに見せる。


「ふむ、どうやら今の言葉に嘘はないようだな。それで不動産屋が私たちに何の用だ?」

「はい。突然ですが手に余る大金を手にした冒険者はその後どうすると思いますかな?」

「えーと~?」


 首をかしげて考え込むクラリスに、ロスマンは説明をした。


「全うな使い道があればよろしいのですが、中にはギャンブルでそのほとんどを溶かしてしまう者も少なくないのです。それだけではありません、大金を目当てに命を狙われることも考えられます。もっともお嬢さんお二人にはそのような心配はないとは思いますが……」

「ふんふん、それで?」


 いつの間にか興味津々に話を聞いているクラリスに、ロスマンは説明を続ける。


「そこでそのような冒険者様に相応の不動産をお売りするのが私の役目なのです。ご理解いただけましたかな?」

「それはつまり、私たちに家を買えということだな?」

「はい、その通りですともアンナ様。家はいいですぞ。暮らしが豊かになり、心も豊かになる。それが人としての幸せだと私は思うのです」

「おうちか~。どんなのがあるかなあ?」


 家と聞いてクラリスは早くも胸をときめかせているようで。


「こんなところで長話をするのもあれですので、よろしければこの後店舗にお越しいただけるとありがたいです。それでは」


 そう言い残してロスマンは去っていった。

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